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全身を覆う包帯が無くなった相澤先生が教壇に立つ。USJの傷が残ったのだろう。右目の下にはくっきりと傷痕が刻まれていた。“個性”使用に関わるような後遺症は残らなかったのだろうか。相澤先生は淡々と今日のヒーロー情報学の内容を口にした。
コードネーム。ヒーロー名の考案。
突然騒がしくなった教室に驚いているうちに相澤先生が説明を続ける。この授業は体育祭の開催前に聞かされたプロからのドラフト指名に関係するらしい。

「指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2、3年から……。つまり今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近い」
「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ」

葉隠に返事をした相澤先生が、手で黒板を示す。
そこには今回の指名の集計結果が映し出されていた。

「例年はもっとバラけるんだが、三人に注目が偏った」

A組指名件数の題の下に横棒グラフが表示される。上三本が飛び抜けて長く、その下に七名の名前が並んでいた。その中に出久の名前が無いことに驚く。一人は確実に指名してくると思ったのに。

「1位が陥落してんじゃん」
「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな」
「ビビってんじゃねーよプロが!!」

騒がしい周囲に眉を顰めていると相澤先生が続ける。この指名をふまえた、職場体験。プロの活動を実際に体験して、いまより実りある訓練をしようということらしい。

「まァ、仮ではあるが適当なもんは……」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

扉が勢いよく開かれ、ミッドナイト先生が登場した。いつ見ても際どいコスチュームに、毎回思う。いいのか、高校にいて。

「この時の名が、世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!」

ミッドナイト先生は考案したヒーロー名を査定するために呼ばれたらしく、相澤先生はそうそうと寝袋を広げる。いいのか、寝袋。

「将来自分がどうなるのか。名を付けることでイメージが固まりそこに近づいてく。それが『名は体を表す』ってことだ。―――“オールマイト”とかな」

前からホワイトボードとマーカーが回され、それから考えを巡らせること十五分後。ミッドナイト先生の出来た人から発表、という言葉にびくりとした。発表形式なのか。

青山が教壇に立ち、「行くよ」とボードをひっくり返す。

「輝きヒーロー。“I can not stop twinkling. ”  キラキラが止められないよ☆」
「短文!!」

ミッドナイト先生のアドバイスで青山のヒーロー名は「Can't stop twinkling」に決まったらしい。
その後の勢いで出てきたのは芦戸。

「じゃあ次アタシね! キャメロンヒーロー“エイリアンクイーン”!」
「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!」

映画で見たモンスターを思い出していると、芦戸は不満そうに席へと戻っていった。却下されたらしい。

「じゃあ次、私いいかしら」

ボードを持って教卓へ向かう梅雨ちゃんに視線が集まる。梅雨ちゃんは小学生の頃から決めていたのだと口にしながらボードを掲げた。

「梅雨入りヒーロー“FRORRYフロッピー”」
「カワイイ! 親しみやすくて良いわ!」

ようやくヒーロー名らしいものが登場し、続けて出たのは切島。ボードには「剛健ヒーロー“ 烈怒頼雄斗レッドライオット”」と書かれていた。

「“赤の狂騒”! これはアレね? 漢気ヒーロー紅頼雄斗クリムゾンライオットのリスペクトね!」
「そっス! だいぶ古いけど俺の目指すヒーロー像は“紅”そのものなんス」

照れくさそうに言う切島に、ミッドナイト先生は優しい微笑みを浮かべている。憧れの名を背負うからには相応の重圧がついてまわるものだと言うミッドナイト先生に、切島は覚悟の上だと答えた。

そして他のクラスメイトも発表を続けていく。

耳郎は“イヤホン=ジャック”
障子は“テンタコル”
瀬呂は“セロファン”
尾白は“テイルマン”
砂藤は“シュガーマン”

再考の芦戸は“Pinky ピンキー
上鳴は“チャージズマ”
葉隠は“インビジブルガール”

全員先生のOKを貰い、席へと戻っていく。みんな、凄いな。前々から考えている人もいるし、即興だとしても思いつくなんて。

「この名に恥じぬ行いを」

クリエティと書かれたボードを掲げた八百万が言う。私は未だに真っ白なボードを見下ろした。まったく思いつかない。想像力がないのか、センスがないのか。

「焦凍」
「名前!? いいの?」
「ああ」

シンプルにショートと書いた轟。そして常闇がそれに続く。“ツクヨミ”、峰田は“グレープジュース”、口田は“アニマ”、そして―――。

「“爆殺王”」
「ハッ」

ボードの三文字に思わず笑ってしまった私を目敏く見つけた爆豪が「聞こえてんだよ白髪テメェ!!」と騒いでいる。とうとう呼び名から“女”が消えた。

「そういうのはやめた方がいいわね」
「なんでだよ!!」

問答無用でNGが出た爆豪が戻ってくる。アレがダメだと思える最低限のセンスが私に備わっていて良かった。同レベルだったら私も今頃“超能力王”とか書いて得意げにしていたかもしれない。本当に良かった。

爆豪の代わりに教卓へ出たのはお茶子で、かなり照れくさそうにボードを翻す。

「ウラビティ」
「シャレてる!」

これで決まっていないのは未発表の私と、出久、飯田。そして再考の爆豪の四名となった。

まっさらなボードを見下ろしていると、真横から覗き込むように瀬呂が顔を出す。

「“ゼファー”の名前、継がねえの?」