十年ぶりの生家
ポケットから出した冷たい金属の固まりを、鍵穴へと差し込む。やけにゆっくりと開錠してから、そのドアノブを握った。
十年ぶりの生家は、よそよそしい空気で私を出迎えた。公安が雇ってくれていた業者のお陰で、家の中も庭も綺麗に清潔さを保っている。一階を見て回り、机や壁に触れると昔の記憶が蘇ってくる。母と二人で暮らしていた日々。母の“個性”と、その華奢な後ろ姿。
階段の下から二階を見上げて、身体が震えた。
母が倒れていた書斎が二階にはある。あの男の姿も、鮮明に思い出せる。
「……だめだ」
手すりの部分にもたれかかり、そのままズルズルと体を下げて座り込む。途端に、世界に私ひとりぼっちのような気がして、膝を抱えた。
二階に母がいるような気がする。あの男も一緒に、書斎で私を待っているような気がしてならない。そんなはずないのに。
ここは私の帰る場所ではないと、この家が言っているようだった。生まれた家に拒絶されたら私はどこへ帰ればいいのだろうか。
「 」
縋るように名前を呼んでも、返ってくる言葉はない。