オールマイトのお昼


「……ごちそうさまでした」

手を合わせ小さく呟く。卯依にも後で伝えようと決めながら小さなお弁当箱を片付ける。

雄英高校での教師生活が始まりもうすぐひと月が経とうとしている。USJ施設での敵襲撃事件。その後、家にやってきた卯依は部屋を見渡してため息を吐くと無言で散らかった部屋の片付けを始めた。小さなお母さんのような卯依の姿に頼もしさと申し訳なさを抱いていた私は、卯依にここ数日の食事について詳しく問いただされ、叱られた。

それから卯依はお弁当を作って来てくれるようになったのだ。職員室では渡しにくいから、と仮眠室の机に届けてくれている。どうやら教室へ行く前に立ち寄っているらしい。

―――やっぱり卯依のご飯は美味しいなあ……。

暖かいお茶を一口飲むと、ぽかぽかと体と心が温まる。一度でいいから卯依のご飯をお腹一杯食べてみたかったな、と叶わない夢を見ていた私は、ガララッ! と大きな音を立てて開いた扉に飛び跳ねた。湯呑を落としそうになるのを慌てて掴む。

恐る恐る顔を向けるとそこに居たのは卯依で、見慣れた姿にホッと胸を撫で下ろす。

「ノックしてよ……」
「……」
「卯依?」
「……」

え……怖い……。

背筋が震える程の無表情を顔に貼り付けている卯依に、とりあえずソファの隣をぽんぽんと叩く。

卯依は黙ったまま静かに扉を閉めて隣に座った。ぼふん、と勢いよく座った振動が伝わる。

―――なにか、あったな。

こういう卯依を見るのは初めてじゃない。卯依がナイトアイの元にいた頃に何度か、一緒に暮らし始めてからも何度か見たことがある。何度もあったけれど、卯依が理由を話してくれることはなかった。

卯依はどんなときも「大丈夫」とは言わない。「話したくない」と言うのだ。

雄英高校に入ってからは初めて見る。
というより、同じ家で暮らしていないのだから当然か。

「校長から頂いたお茶菓子があるよ。卯依、食べるかい?」
「食べる」
「お茶は?」
「いる」

昼休みが終わるまではまだ時間があったから、私はのんびりとお茶とお菓子の準備をする。卯依はやっぱり何も言わずに、所在無さげにぶらぶらと足を揺らしていた。昔の癖が抜けていない。こうしていると十年前に戻ったみたいだ。

「おいしい」
「良かった」
「……熱ッ」
「火傷に気をつけてね」
「……うん」

両手で湯呑を包み、息で冷ますのを見守る。嫌なことがあったとき、卯依が一人で居たくないと思ったとき、私はこうしてそばにいた。


けれど、今は
両親の居ない家でただひとり暮らしている卯依のそばには誰もいない。


―――やっぱり生家に戻すのはまだ、時期尚早だったのではないだろうか。どれだけの戦闘訓練を積んでも、卯依は15歳の子供。
人の言葉に悩み、悪意に傷つき、心を揺り動かされる。どこにでもいる普通の子だ。

根津校長に相談して、卯依の住む場所についてもう一度考えよう。せめて母親を失ったあの家から離れられるように。心の準備をする時間を作れるように。

餡の入ったお茶菓子を頬張り、少し和らいだ表情を見せる卯依の頭に手を乗せる。

「?」

不思議そうにこちらを見る卯依の頭をそっと撫でてから腕を下ろす。卯依は粉を口元に付けたまま、訝しげに眉を顰めた。少し間の抜けたその光景に思わず笑みが溢れてしまう。

穏やかな平日の時間。機嫌を損ねてしまった卯依を宥めるように、外から鳥の鳴き声が聞こえた。



▲ 追記 ▽



食堂で初期ロキくんと衝突した直後。表には出さなくても色々思うことがあってオールマイトの居る仮眠室に向かう主人公。主人公はオールマイトのことを自分の鎮静剤だと思ってます。