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試験会場に取り付けられたカメラの映像は、雄英高校の教師陣が集うモニター室へと送られている。モニターには会場で奮闘している受験生が映し出されていた。雄英高校の教師の一人である相澤消太は、首に巻いた捕縛布に口元を埋めて映像を見ていたが、耳が拾った単語に引き寄せられるように一つの画面へと視線を移す。

「ほら、ゼファーさんの」

他の教員達も小声で話している話題の人物は、モニターの中で軽快に仮想敵を撃破している。相澤は視線を落とし手元の資料に目を通した。写真に写っている少女、実操卯依は白い髪に赤い瞳。“個性”の欄には超能力、植物創造と記されている。

“ゼファーには似ていないんだな”

試験が始まる数時間前、書類に目を通したマイクがぼそりと溢した言葉に、相澤は咎めるように「おい」と声をかけた。マイクはしまったと口元を抑えて肩を竦めていた。口にはしていなくとも、ここにいるほとんどの教員は同じことを考えているだろう。相澤はもう一度写真を見てからモニターへと顔を向けた。そこに映っている実操の瞳は金色に輝いている。“個性”を使うと瞳の色が変化するのはゼファーと同じだが、それ以外に容姿の共通点は見つけられなかった。

「“個性”はしっかり受け継がれたようだな」

ブラドキングの言うとおり、実操はゼファーの超能力の“個性”をそのまま受け継いでいるようだった。ゼファーが得意としていたサイコキネシスを中心とした戦い方には見覚えがある。誰もが生前のゼファーを思い出していた時、ミッドナイトが心底安心したように息を吐いてから口を開いた。

「少し心配してたのよ。ほら、昔、いろいろあったじゃない? 施設を逃げ出したりして……」
「見つけたら保護するようにって、連絡ありましたよね」
「落ち着いたみたいで良かったわ」

ミッドナイトと相澤の会話にセメントスが深く頷く。十年前に引き起こった悲劇、ゼファーの死。それと同時に存在が明らかになったゼファーの子供。当時受けた衝撃は今も忘れられない。けれどそれ以上に実操本人が、その事実を受け入れられなかっただろうと相澤は思っていた。詳しくは聞いていないが、実操は自分がゼファーの子供であることを母親から知らされていなかったらしい。ゼファーは本名だけではなく、結婚していることや子供が居ることを誰にも伝えていなかった。戸籍から実操が子供だということがバレないように細工すらしてあったらしい。

ある日突然、父親がヒーローだと伝えられ、同時に父親の死を宣告されたら。決して五歳の子供が受け入れられるような内容じゃない。逃げ出したくなることもあるのだろう。実操が脱走したと連絡が入るたびに、相澤は少し一人になる時間が必要だと判断し、発見してもすぐに連れ帰ることはしなかった。妙な輩に絡まれないようにだけ目を配り、実操が自分で園へと戻るか、他のヒーローに保護されるまで見守っていた。誰かを待っているようにも見えるその姿に、どう声をかければいいか分からなかったというのもある。確か母親も亡くしているはずだ。齢五才で両親を失った子供に、気の利いた発言をかけられるような人間ではないことを相澤は自覚していた。

一人で居る実操を見ていて、ゼファーが生きていたらと考えない日はなかった。この世のだれも、彼の代わりになる人物はいない。ゼファーの友人であるヒーローの一人に引き取られたと聞いてから、街で彷徨う実操の姿は見なくなったがそれでも心のどこかで不安はあった。

「本当に良かったです」

少し俯きがちだった相澤の肩をミッドナイトが叩く。

「まあ、恩人の子供でも贔屓はしませんが」
「ブレないわね」


試験も終盤となり、YARUKI SWITCHを押した途端に、スピーカーから轟音が鳴り響き巨大仮想敵が出現する。ほとんどの受験生達は慌てて逃げ出しているが、一人だけ微動だにせずに相対している人物がいた。実操だ。

「お、ゼファーお得意の電流操作か?」

巨大仮想敵がただ一人視界に映った標的に狙いを定める。どの会場でも、真っ向から立ち向かう受験生はコイツだけだった。これまでの戦闘を見るに、怖気づいて動けない訳ではないだろう。

モニターの中で実操は腕を正面へと向けていた。足元からコンクリートを割るようにして出てきた蔓(つる)に、相澤は目を見開く。

―――そうか、植物創造。母親の“個性”の方か

直径十センチはあるだろう蔓が実操の足元から伸びていき、接近していた仮想敵の足元に巻き付く。腕のアームでそれを引きちぎろうと動く仮想敵を拘束するように、蔓は数を増やし成長を続けていった。瞬く間に地面に縫い付けられるようにして植物が全身に張り巡らされた仮想敵は、一ミリもその巨体を動かすことが出来ずに停止する。その隣のモニターで、典型的な脱落者と同じだった受験生の少年が高く飛び上がり、一撃で巨大仮想敵を破壊した。

当然盛り上がりを見せるモニター室の中でオールマイトはニヤリ、と口角を上げ自身の後継を見ていた。それから、試験終了のアナウンスを受けて蔓を枯らせる実操卯依に視線を向けて、誰にも気付かれないように胸を撫で下ろすのだった。