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合格通知を知った翌日、家に返ってきた俊典さんから誘われ海浜公園へと向かった。緑谷出久はまだ来ていないようだったので、私は一年前に比べるとすっかり見違えた砂浜をあてもなく歩くことにする。波の音と風の音、たまに聞こえる男女の話声。なんだか気分が良くなって鼻歌交じりに歩く私が、折り返して俊典さんのもとへ戻ると緑谷出久はぼろぼろ泣きながらそこに居た。少し吃驚しながら「合格おめでとう」と言った私に、緑谷出久は嗚咽混じりに「卯依ちゃんもおめでとう」と言って涙を拭った。

俊典さんたちの会話を聞いていると、ポケットに入れていたスマホから着信音が流れてきた。どうやら新着メッセージのようで、アプリを開くと薫子ちゃんからの祝福メールだった。たぶんナイトアイから合格したことを聞かされたのだろう。画面に返事を打ち込んでいた私の真横で、俊典さんがマッスルフォームに変身していた。周囲に人が居るのに、と口を開く前に「オールマイト!? いつの間に!?」という叫びと共にカップルが駆け寄ってくる。

「やっべ」

俊典さんがカップルに迫られて握手やサインをせがまれている間に、私は緑谷出久の手を取った。

「えっ?」
「いいから」

焦ったように私の名前を呼ぶ二人の声を無視して夜の砂浜を駆け出す。俊典さんたちから少し離れたところで“個性”を発動させて空中へ浮かぶと、すぐ後ろから驚いたように叫ぶ声が聞こえた。振り返ると困っている顔の緑谷出久。

「ひ、人に見られたら」
「大丈夫だよ。みんなオールマイトしか見てないから」

そういって両手をそっと掴み彼にも“個性”を使う。暴れたりする人が相手だと難しいけれど、こうして一緒に空中を飛ぶだけならエネルギーの消費も少なくて楽だ。ふわりと浮いた自分の体に興奮を隠せないようで、彼の頬が上気しているのが見て分かる。

「うわあ……僕……と、飛んでる」

片手を離して高度を上げると、繋いだままのほうの手がさっきよりも強く握られた。まだちょっと怖いのかもしれない。少し体を寄せてゆっくりと海の上を移動していくと、きらきらした目をまっすぐに向けられて言葉に詰まってしまった。

「ありがとう、卯依ちゃん」
「……どういたしまして。怒られちゃうから、大人には内緒ね?」

肩を竦めて言った私に眉を下げて笑う緑谷出久の手を引く。しばらく空中散歩をしてから俊典さんのところへと戻ると案の定“個性”を使うところをばっちり見ていたようで「こら」と叱られてしまった。しょっちゅう“個性”を使って大人に叱られている人間としては、俊典さんの怒り方は優しすぎて全然怖くない。あっけらかんと私が説教を軽く受け流しているのを見て、緑谷出久は困っているようだった。

「そういえば」
「?」
「私、なんて呼べばいい?」
「?」

首を傾げている二人にもう一度「オールマイトは緑谷少年って呼んでるでしょ?」と言うと、納得したように顔を見合わせた。この一年間、呼びかけるときは「ねえ」、俊典さんと話すときは「緑谷出久」とフルネームで呼んでいた。

「なんでも、卯依ちゃんの呼びやすいように……」
「学校のお友達を呼ぶように呼べばいいんじゃないか?」
「学校に友達居ないけど」

私の言葉に「oh」と胸を抑えた俊典さん。緑谷出久は吃驚したように目を見開いて私を見ていた。

「そっちはなんて呼ばれてるの?」
「お母さんは出久って呼んでて、学校の人たちは緑谷って……あと、幼馴染からはデクって呼ばれてる」

と、だんだん小さくなる声に必死に耳をすませた。

「でく?」
「うん。出久ってデクとも読めるから、バカにされて……」

少し暗い表情を浮かべているのを見て、俊典さんと顔を見合わせる。名前を呼ぶたびにそんな顔をさせるのは嫌だなあと考えてから口を開いた。

「じゃあ、出久って呼ぶ」

私の言葉に出久は嬉しそうにはにかんだ。こっちまでつられて笑みが浮かぶその表情に、胸のあたりが温かくなっていく。

出久を家まで送る道中、その幼馴染が実技試験の会場に居た「口の悪い男の子」だったことが判明し、私はスン、と表情を失うのだった。