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ナイトアイから電話でその情報を得た私は、思いつく場所を手当たり次第に探した。といっても彼女と出会ったのは一年前の爆発事故の現場で、それ以降に会うのはいつも病院の施設内だ。その二つを見回ったあとは当てがなくなり、街のパトロールに使っているルートに沿って卯依を探した。しばらくしてから他のヒーローが卯依を保護したと連絡が入り、私はほっと安堵のため息を吐き出した。

ヒーローが卯依に施設を抜け出した理由を聞いたが、答えは得られなかったらしい。どうやって施設を抜け出したかも不明のまま数日が経ち、再び卯依が逃げ出したという知らせを聞いたとき私はひき逃げ犯を捕まえたところだった。

「なに!? また逃げ出したのか!?」

携帯のスピーカーから肯定の言葉が届く。思わず腕の中の犯人を締め付けてしまっていた私は、通報を受けた警察に犯人を引渡し卯依の捜索へと向かった。私が都会の中心部で卯依の姿を見つけたとき、あの子は誰かを探しているように視線を彷徨わせていた。

「あ! オールマイトだ!」
「握手してください!」
「ちょっと待ってね! 子供の保護を先に……」
「オールマイトだー!!」
「写真いいですか?」

あと十数メートルの距離でファンの方達に囲まれてしまった私がたどり着いた頃には、卯依はどこにも居なかった。再び囲まれてしまう前に地面を強く蹴ってその場を離れる。数秒後に路地裏を駆けている小さな人影を捉え、進路を塞ぐように着地すると風圧で子供が後ろに倒れてしまった。

「すまない、大丈夫かい?」

尻餅をついてぽかんとこちらを見上げているのは探していた卯依で、私はやっと安心して息をつくことができた。差し伸べた手をじっと見つめてから卯依は一人で立ち上がる。

「施設を逃げ出すなんてダメじゃないか。さあ、早く帰ろう」
「やだ」
「えっ」

思いがけない返事に固まった私を置いて、卯依が横を通り抜けて路地を進んでいく。すぐに硬直が解けた私は走り出した卯依を追いかける。(子供に逃げられるなんて人生で初めてのことだった)6歳の子供の走る速さなら簡単に追いつく。軽快に正面を向いて走る卯依の真横を小走りでついていきながら必死に説得しようと口を開いた。

「どこに行こうとしてるんだ?」
「……」
「せめて君を見つけたことを皆に報告させてくれ。他のヒーローも探しているんだ」

ぴたっと足を止めた卯依の動きに遅れて数メートル先で立ち止まる。逃げ出さないかと心配しつつ携帯でナイトアイに連絡を取った。保護したことをヒーローネットワークにも共有してほしいと頼んでから携帯を閉じ振り向くと卯依は消えていた。何故だ!?

「足音は聞こえなかったぞ!?」

周囲を見渡すも視界に映るのは寂れた路地と野良猫ばかり。子供の足ならそう遠くへは行っていないだろうと、再び地面を強く蹴りビルの屋上へと飛ぶ。卯依の目的地が分かれば先回りできるのだが予想もつかない。まさかあの一瞬で連れ去られたのだろうか。額に汗が流れ、視線を隣のビルへ移すために体を反転させるとその先に卯依が居た。

「!?」

もうおじさん思考が追いつかない!! 卯依は私に気付いていないようで屋上をてくてく歩いている。どうやってここまで登ってきたのかと考えている私の思考など置いてけぼりで、屋上の端まで辿りついた卯依はまるでその先に見えない足場でもあるように一歩を踏み出す。マズイ、落ち―――

「……!!!」

瞬きと同時に地を蹴った私の手は、宙ぶらりん状態の卯依の襟首を掴んでいた。

―――心臓が口から飛び出るかと思った……ッ!

ゼーハーと焦りから出る荒い呼吸を必死に抑えつつ、卯依を屋上へゆっくり下ろす。

「じ、自分が何をしたのか分かっているのか!!」
「……」
「この高さから落ちたらひとたまりも」
「……」
「ひとたまり、も」

そこでようやく、卯依の瞳の色が平時とは異なっていたことに気付いた。一年前に見た血のような赤でもなく、快晴を知った日のきらきらと輝いていた赤でもない。

卯依の瞳は金色に煌めいていた。

私は色変わりの瞳を持つ人間を知っていた。
“個性”の使用時に瞳の色を真紅から黄金へと変えるヒーローを。

「そうか……“個性”が発現していたのか」
「……」
「ゼファーの“個性”を、そうか……」

6歳の子供が施設を抜け出した方法と、先ほど足音も無く視界から消えた理由が判明して納得した。こんなに小さいのによく使いこなしている。確かゼファーは“個性”を扱えるようになるまでかなりの時間を要したと言っていたが・・・・・・。何も言えない私に、卯依は再びどこかへ飛んでいこうとしたのでその細い腕を掴む。

「今日はもう帰ろう」
「……」
「勝手に居なくなったら皆が心配するだろう?」
「……」
「いいかい?」
「……うん」

やっと返ってきた返事にホッとして肩の力を抜き、卯依の体を抱え施設へと戻った。それから数日後、今度は病院から卯依が消えたと聞かされた私は、事件解決のインタビュー中に頭を抱えたのだった。しかも今度は置き手紙で「さがさないで、へいきです」と残されていたらしい。違う、そうじゃない。