悩まし睫毛


無事に中学を卒業し、高校の入学式まで残り一週間となった頃。いつものように部屋でヒーローニュースを見ていた僕は、興味深い見出しを見つけ無意識にクリックしていた。記事のタイトルは「元NO.3ヒーローの子供、雄英高校に入学」というものだ。

―――元NO,3ヒーロー? 今のNO.3はウィングヒーローのホークスで、その前はベストジーニストだから……まさかベストジーニストの子供か!?

そんな情報は無かったと思うけれど……。必死に脳を回転させている間に開かれた記事をスクロールすると、一枚の写真が表示された。

「……ゼファーだ」

そのヒーローの写真に多くの記憶が蘇る。動画サイトに残っているゼファーの勇姿を初めて見たのはいつだったろうか。“個性”の応用で多彩な戦い方を魅せた彼の映像は今も人気が衰えておらず、彼の命日には毎年ファンによる追悼動画が投稿される程だ。十数年前の彼の活躍動画を見た僕は、画面の向こうにいるこの強いヒーローがこの世にはもう居ないのだと思うと悲しくてたまらなかった。十年前の訃報を知った時は、母と一緒にテレビの前で涙を流したのをよく覚えている。

「ゼファーに子供……確か何年か前にもそういう記事が出たけれど、信憑性が低いから誰も信じなかったんだっけ……」

今度もまたガセネタだろうかと疑いながら記事を読み進めていく。十年前の事故の詳細が記載されており、当時の爆発事故が起きた現場の写真も載せられていた。建物が跡形もなく崩れており、爆発の威力を思い知らされる。死者が出なかったことが信じられないほどだ。

「『―――ゼファーの子供が、雄英高校のヒーロー科に合格したという情報が確定。同学年には現NO.2ヒーロー・エンデヴァーの息子も。かつてゼファーはエンデヴァーのサイドキックとして契約していた過去があり、二人の子供が彼らの出身校で机を並べるというのは感慨深いものがある。ゼファーの子供についての詳細は不明。父親と同じ“個性”を受け継いでいるのならば、サイキックヒーローの復活もそう遠くないだろう―――』」

サイキックヒーローか……サイキック……超能力?

「ん!?」

頭の中で点と点が繋がったように、一人の女の子の存在が浮かび上がる。確かあの子は自分の“個性”を超能力だと言っていた。オールマイトも彼女を「友人の忘れ形見」と言っていたことを思い出す。確かにゼファーとオールマイトは親しかったし、テレビで共演することも多かった。最後の共演はビルボードチャートのトップスリー鼎談特集だった筈だ。オールマイト、エンデヴァー、ゼファーの三人。二人の間を取り持って話を盛り上げていたゼファーの表情をよく覚えている。あの番組は視聴率が歴代の記録を塗り替えて今でも破られていない。DVDの売上ランキングも、しばらく上位に留まっていた。それは三人の人気が前提としてあるけれど、ゼファーが最後に出演した番組だったこともあるだろう。あの放送があってすぐに、ゼファーは帰らぬ人になった。

――卯依ちゃんは五歳の時に父親を亡くしたのか。

その事実に胸の辺りがずっしりと重くなる。オールマイトと暮らしていると聞いた時点で、なにか事情がありそうだとは思っていたけれど……。卯依ちゃんに悲しい過去があるようには見えなかった。きっと見せないように生きているんだろう。

記事の最後にはゼファーの生前の写真が多く載せられていた。一枚一枚を見て、その度に卯依ちゃんのことを思い出す。彼女と同じ赤い瞳は宝石のようにキラキラしていて、“個性”を使用している時はお日様のように金色に煌めいていた。子供のように笑うゼファーの顔立ちは、正直卯依ちゃんにはあまり似ていなかった。もしもゼファーが今も生きていたら、僕は卯依ちゃんと出会うことは無かったかもしれない。それでも、彼が生きていたらと考えることは止められなかった。