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「あ! そのモサモサ頭は! 地味めの!!」
どうやら麗日と出久は面識があるようだ。二人の会話を聞き流しつつ異様なネクタイの形に視線が集中させていたが、そっと目を逸らす。凝視されたら誰だっていい気分はしないだろう。そう考えて視線をあげ、ふと出久の後ろに立っている男の子の顔が見覚えのあることに気付いた。
「(―――インゲニウムに似てるなこの人)」
「今日って式とかガイダンスだけかな? 先生ってどんな人だろうね。緊張するよね。ね! 実操さん!」
「あー、そうだね」
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
記憶の中にあるインゲニウムの素顔を思い出しながら麗日の言葉に返事をすると、予想外の場所から男性の声が聞こえた。麗日と二人顔を見合わせてから振り返り、視線を下げる。
「ここは……ヒーロー科だぞ」
ヂュッ!! と音を立ててゼリー飲料を飲む大人の人が、黄色い寝袋に包まれた状態でこちらを見上げていた。ゆっくりと寝袋に入った状態のまま立ち上がり、寝袋から出てくる。
「……」
「卯依ちゃん?」
伸ばしっぱなしのまま放置されたような長い髪、無精髭、くたびれた黒い服。寝袋に入ったままここまで来たのだろうか、その状態で人前に出る? 出久のネクタイが可愛く思える程にだらしない人を見て言葉を失ってしまった。ていうか震えてしまった。
「ハイ。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
全身黒色のその人の発言はまるで教師だ。「不法侵入した不審者なのでは」という疑いの目をとりあえず止め、言葉を待つ。
「先生なのかな」
麗日が顔を寄せて小声で話しかけてくる。「みたいだね」と答えた直後、「担任の相澤消太だ。よろしくね」と名乗られた。麗日と一緒に目を見開いて驚愕する。まさかの担任。
男の人は寝袋をごそごそと漁り、中からジャージを取り出した。見覚えのある青色のそれは雄英高校の体操服だったはず。入学案内に写真が載っているのを見た。
「早速だが、体操服着てグランドに出ろ」
そのあと全員に体操服が配られ、更衣室へと向かうことになった。クラスの人達は指示に戸惑ったような表情をしていたけれど、私は担任の身だしなみが気になってしまってそれどころじゃない。生まれて初めてこの場にベストジーニストが居たらいいのに、と思ってしまった。
男女別の更衣室に分かれてロッカーに荷物を置く。制服を脱いでいる最中もずっとあの担任のことを考えてしまっていた。気になって仕方ない。今思えば私の周りに居た人達は身だしなみをしっかり整えている人が多かった。ナイトアイに俊典さん、ベストジーニストにエンデヴァー、塚内くん。やっぱりみんなきちんとした服装の人ばかり。
……あんなくたびれた服装の人、生まれて初めて見た。俊典さんのブカブカTシャツだって、皆の基準で見たらだらしなくなかったのかもしれない。なら担任の人もそこまでだらしなくない? あれが普通ぐらい? もう分からなくなってきた。俊典さんの服装に厳しく言ってきたのもやりすぎだったのかもしれない。どうしよう。
「すごい人だったねえ」
「……うん」
「ちょっとだらしない人なのかなーって思っちゃった」
「!!」
「わっ、どうしたん?」
麗日の言葉を聞いて勢いよく顔を向けると驚かせてしまったようだった。
「やっぱりそう思うよね」
「う、うん……」
「良かった……私の基準がおかしいのかと思った」
「???」
てきぱきと着替えを終えてから更衣室を出る。ちょうど男子更衣室を出てきた出久と視線が合い、自然と二人でグラウンドへ向かって歩き出す。出久はなにか言いたげに私を見ていた。
「さっき震えていたけど、大丈夫? 体調が悪いの?」
「ううん。ちょっと神経質になってたみたい」
「そ、そっか……。その、僕で良ければ相談に……って、上手いアドバイスが出来る訳じゃないけど、話を聞くぐらいなら出来るから、その……」
視線を泳がせながら言った出久の言葉に驚きながらもゆっくり頷く。
「……ありがとう」
途端に顔を赤くしてしまった出久に、じゃあさっそくと口を開く。「担任の先生の身だしなみが気になりすぎて、他になにも手につかなそうなんだけど」と相談してみた。出久はぽかんと口を開けて「へ?」と言ったきり何も言わなくなってしまった。あれ?