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出久は握力測定でも“個性”を使うことは無かった。心配で見ていた私は、相澤先生も出久を見ていることに気付く。ほかの人の測定を見ているときとは少し様子が違うような気がした。

第三種目は立ち幅跳び。50m走の時と同じように体をサイコキネシスで浮かせ、グラウンドの端まで飛んでいく。やろうと思えばこのまま地球一周することだっておそらく可能だろうが、何時間かかるか分からないし、そこまでやる気を見せる必要もないだろう。ふわふわと飛行してスタート地点まで戻れば、名前も知らないクラスメイトが二人駆け寄ってきた。

「ねえ、もしかして、“個性” 超能力?」

生まれて初めて聞かれた言葉に一瞬固まる。ピンク色の髪と同色の肌、黄色い触覚の生えた女の子が黒目をきらきらさせてこちらを見ている。

「そうだけど」
「えっ! じゃあ、ゼファーの!? あのニュースガチだったのか!」

赤髪を逆立てた男の子が大声を出すと、周囲でこちらを伺っていたクラスメイトも集まってきた。どんよりと気分が下がっていくのが分かる。

「名前なんだっけ、実操、」
「実操卯依」
「ってことはゼファーの苗字も実操だよな?」

それは知らないけど、と答える前に相澤先生が「お喋りはそこまで。まだ続けたいなら除籍」と言って全員が顔を真っ青にして散らばっていった。人ごみが一瞬で消える魔法の言葉だ。

第四種目の反復横とびもサイコキネシスを用い、そこそこの記録を出したあと私は自分から麗日へと声をかけていた。何故か立ち幅跳びの記録を測ってから、麗日は私を遠目で見るだけで近付かなくなっていたのだ。ゼファーのことが関係しているのなら、ほんの少し寂しい。

「ねえ、麗日」
「は、はい!」
「いず、緑谷と入試会場同じだったんだよね?」
「緑谷? って、あのもさもさ頭の?」

頷いた私に麗日は「そうだよ!」と強ばった表情のまま答えた。「どんな様子だった?」と聞くと、麗日は不思議そうに首を傾げてから「凄かったよ! 巨大敵をパンチで粉砕したの! びゅーんって飛んで、バコンって!」と右腕を振り下ろす動作と共に教えてくれた。

「びゅーん……バコン?」

実技試験で最後に登場した巨大仮想敵を思い出す。ということは、出久は地面を強く蹴って飛び上がり、一撃であれを倒したと。なら“個性”は間違いなく受け継がれている。そして発動することも出来る、と。確かあれはポイントが無かった気がするけれど……うーん?

「バコンって殴って、そのあとは?」
「あー……えっと、ごめんね。私“個性”使いすぎると酔っちゃって……そのあとはあんまり覚えてないんだ」
「そっか」
「あ! でも、あのメガネの人! あの人も同じ会場だったよ」

麗日の言葉にお礼を言ってからメガネの人を探す。唯一メガネをかけていた(おそらく)インゲニウムの血縁者くんに近寄って声をかけた。「ム」と口元を引き締めて振り返るその表情は見れば見るほどあの人に似ている。

「緑谷と同じ試験会場だったんだよね」
「そうだが」
「彼の試験での様子を知りたいんだけど」
「? 確か、最後の巨大敵ロボットが出てくるまでは、目立った動きはしていなかったと思う。だが」
「だが?」
「他の受験生が巨大ロボの足元で転び、動けなくなっていたと知るや否や飛び出したんだ。一切の躊躇なく、あれがポイントにはならないと知っていながら!」
「……」
「彼は実技試験の構造を分かっていたんだ! だからこそ合格した。今のところ、良い成績は出せていないようだが」

訝しげに出久へ視線を送るメガネくんに「ロボットを倒したあとは?」と訪ねてみる。

「腕と両足がバキバキに折れていた」
「ばっ、ええ!?」

予想だにしていなかった発言に、思わず出久を見た。確かに、俊典さんと同じ力を引き出せるような体の構造はしていないと思っていた……。十ヶ月で彼のようにはなれないと予想もしていたけれど、“個性”を一度使っただけでそんな代償が?

―――入試の映像はもちろん全教師が見てる。なら相澤先生も出久が“個性”を使いこなせていないことを知ってるはずだ。ならこのテストで“個性”を活かせずに最下位になるのが誰かということも予想はつく。

さっきからずっと出久を探るように見ているし……。出久はさっきからずっと青ざめた表情で余裕も無さそうだ。このままじゃ本当にマズイ。代償を恐れて最下位に甘んじたら絶対に除籍処分になる。かといって再起不能になるのを前提に“個性”を使用しても、あの教師は認めないだろう。

解決策があるわけでもないけれど、このまま続けさせるわけにはいかない。そう決意して出久のもとへと踏み出した私の前にザザッと全身黒ずくめの固まりが現れた。

「教えてやろうとしたのか? 随分友達想いなんだな」
「……」
「でも、今はおまえの出る幕じゃない。いいから、黙って見てな」

付け加えるように「なにか助言したら二人共除籍」と魔法の言葉を言われて黙り込む。出久の反復横とびの記録は平均だった。残りは四種目。そのどれかでこの教師の考えを変えさせる行動をしないと、出久はこの学校に居られなくなる。私は何も言えないから見守ることしか出来ない。出久の顔色がいつの間にか伝染っていたようで、心配した麗日が顔を覗き込んできたが何も言えなかった。