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全力で、今、自分にできることを。
指先の一点に力を集中させて放ったボールは、遥か遠くに落ち記録は705.3mと出た。ズキズキと痛む指を無理やり握り込み拳を握る。行動不能になんてならない。痛みを抑えて顔を上げると、相澤先生は初めて笑みを浮かべていた。少なくとも今、見込みが無いという判断はされなかったってことだ。
「どーいうことだこら、ワケを言えデクてめぇ!!」
恐ろしい形相で手を爆破させながらかっちゃんが駆けてくる。“個性”のことはかっちゃんには言っていない。だから納得が出来ないのだろう。僕は情けないことに「うわあ!!」と叫びながら後退ることしか出来ない。そんな僕の前に飛び出してくる一人の女の子が居た。
「う、卯依ちゃん!」
両手を広げて僕を守るように立ちはだかる卯依ちゃん。かっちゃんは気にせず「退けや白髪女!」なんて叫んでいる。な、なんてことを……!
かっちゃんの手の爆破が卯依ちゃんに向かって振り下ろされる。―――まずい!
「危ない卯依ちゃん!」
咄嗟に卯依ちゃんの両肩を掴んで引き寄せる。それと同時に、かっちゃんが“個性”の使用をやめる。いや、消された……? さっき僕に巻きついていた相澤先生の布が、押さえ込むようにかっちゃんを捕らえている。
「んだこの布、固っ!!」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編みこんだ『捕縛武器』だ。ったく、何度も“個性”使わすなよ……
俺はドライアイなんだ!!」
―――“個性”すごいのにもったいない!!
ぽかんとしていた僕のすぐ傍で、卯依ちゃんが僕の名前を呼ぶ。そこでようやく、引き寄せた勢いで卯依ちゃんの背中が僕の胸にぴったりとくっついていたことに気付いた。
「!?」
こちらを見上げている卯依ちゃんの顔が近……ッ! 近すぎる!! 卯依ちゃんはしょっちゅう距離を縮めてくることがあったけれど、僕からこんなふうに近付くことは無かった。花のいい香りがして他に何も考えられない。全身沸騰したように熱くなって動かない僕に、「出久、離してくれないと動けない」と卯依ちゃんが冷静に言う。
「!!」
肩を掴んだままだった僕は慌てて手を離した。それと同時に忘れかけていた指の痛みが蘇る。
「痛っ……」
「診せて」
そっと手を取られて、患部をじっと見つめられる。卯依ちゃんの手が優しく触れてきて、痛みどころじゃない程胸がざわつく。
「多分、これが終わるまで保健室に行けないだろうから、固定だけしておこうか」
そう言った卯依ちゃんの手の平に、突然10センチ程の木の棒が出てくる。
「!?」
それを腫れ上がった指に添えると、またどこから出したか分からない植物の蔓をぐるぐると巻きつけていく。
「……手品?」
僕がぼそっと言った言葉に、卯依ちゃんは顔を上げ、気の抜けたような表情をした。
「こういう“個性”なの」
ということは、超能力なのだろうか。確かにゼファーは植物を操る力を持っていたけれど……今のはまた、別物のような……。
「あとは冷やすものがあればいいんだけど」
「ううん、そんな。これで十分だよ、ありがとう卯依ちゃん!」
卯依ちゃんは、どういたしましてと微笑んでから僕から離れた。それから数秒後、しゃがみこみたい気持ちを堪えて目をぎゅっと瞑る。
―――はあああっ!
バクバクと胸を内側から叩きつける心臓を、抑えるようにぎゅっと左手を押し当てた。馬鹿、あと三種目あるんだ! 集中しろ! パシンと頬を叩いてから次の種目へと備えた。まだ終わってないぞ、僕!
▲ ▽
全ての種目を終えて、いよいよ結果発表の時間が訪れた。持久走はサイコキネシスを用いて良い成績を残すことができた。上体起こしも同じようにサイコキネシスを使ったけれど、腰に負担がかかって少し痛い。もっと細かいコントロールができるように訓練しないと……。長座体前屈はやっぱり“個性”の活かし方が見つけられず、そのまま挑むことにしたが特別体が固いわけではなかったので成績は良い方だった。
総合的に見ても悪くなかったのではないだろうか。出久はドキドキを隠せない様子で相澤先生の言葉を待っている。
「ちなみに除籍はウソな」
ブンという起動音を出して空中に結果が掲示される。あ、一位だ。
「君らの最大限を引き出す。合理的虚偽」
「はーーー!!!!??」
私はほっと息を吐いて出久の顔を見た。なんとも形容し難い表情と叫び声をあげていたが、除籍にならなくてなによりだ。出久の奥では麗日とメガネ君も驚いて叫んでいた。ていうかメガネが割れてる。相澤先生はこの後の指示を出すと背中を向けてグラウンドを去っていった。