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グラウンドから去る相澤を呼び止める声があった。ワン・フォー・オールの後継、緑谷出久を心配して見に来ていた新米教師、オールマイトだ。オールマイトの緑谷贔屓な発言に、それは教師としてどうなのかと苦言を呈しながら、相澤は言った。
「見込みがない者はいつでも切り捨てます。半端に夢を追わせる事ほど残酷なものはない」
オールマイトがその発言に隠された優しさを汲み取り、それでもなお、ウマが合わないと再認識したのと同時に相澤の歩みが止まった。
「相澤くん?」
そっとしゃがみこんだ相澤の姿に、オールマイトが心配そうに声をかける。恐る恐る背後に迫り相澤の熱い視線の先を見ると、一匹の猫が居た。
―――相澤くん、猫……好きなんだ。
二人の数メートル離れた場所、植木のすぐ傍に白い猫が目を閉じて座り込んでいる。遠くからでも分かる艶々とした毛並み、白一色のしなやかな曲線と長い尻尾がゆらゆらと揺れている。とても美しい猫だった。
相澤がしゃがみこんだまま数歩前へと動いた瞬間に、察知したように白猫の瞳が開かれる。その目の色が赤く輝いていたことで、オールマイトは馴染み深い少女のことを思い出していた。
「卯依によく似てるなあ。あの子、どちらかというと犬より……猫に」
ほとんど独り言のように言っていたオールマイトだったが、下から突き刺さるような視線がぶつけられて息を呑んだ。
―――し、しまったー!! 卯依との関係は根津校長とリカバリーガールしか知らないんだった!! つい普段の癖で……!!
「いや、あの……卯依・実操に……ね? 白い髪と赤い目って、みんなそう思うんじゃないかな? ね?」
「ね? と言われても。オールマイトさんがそんな欧米な名前の呼び方してるの、初めて聞きましたけど」
突き放すような相澤の言葉にオールマイトがだらだらと汗を流す。しどろもどろになってしまったオールマイトに対して、相澤は特大のため息を吐いてから立ち上がった。
「お二人の関係なら知ってます。根津校長に聞きました」
「え!?」
「実操の後見人があなたの元サイドキックの名前でしたし、実操の緊急連絡先の一つ、オールマイトさんの電話番号ですよね」
「あ、そういえば」
「あれ見たら誰だって気付きます」
ああ、と肩を落とすオールマイトから視線を外し、呆れたように相澤が口を開く。
「今度また口が滑ったとき、今みたいに焦ってたら全員にバレますよ」
「……うん」
「迷惑を被るのはあなたじゃなくて実操ですから、気をつけてください」
「……はい」
すっかり萎縮したオールマイトの足元に白猫が歩み寄る。そのまま擦り寄るように体を擦りつけて鳴いた白猫に、オールマイトは(慰めてくれるのかい、優しい子だな)としゃがんで小さい頭を撫でてやる。
「……」
その光景を絶句したように見下ろす相澤に、オールマイトは気付かない。
「お〜よしよし、人懐っこい子だなあ」
「そいつ」
「ん?」
猫を抱き上げて可愛がっているオールマイトに鋭い視線をぶつけながらも相澤は続けた。
「俺がここで働き初めたのと同じ時期に、雄英に住み着き始めたんです。行儀も良いし利口だからって見逃されてて」
「へえ」
「そいつが人に懐くなんて本当に珍しいことですよ。いつも警戒して逃げ回るんで」
「そ、そうなんだ」
なんか棘がある言い方じゃない? と戸惑うオールマイトの腕の中で大人しくしている白猫に、相澤が恐る恐る手を伸ばす。途端にフシャー!!と威嚇した猫に、相澤とオールマイトが同時に固まった。
「……服にマタタビでも仕込んでるんですか」
「なにもしてないよ……」
どんどん鋭くなっていく相澤の視線に、オールマイトはきゅっと腕の中の猫を抱きしめて耐えるのだった。