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体操服を脱いで制服に着替えている最中、隣でずっと俯いていた麗日が突然震えだしたのでぎょっとして顔を覗き込む。大きな目が若干潤んでいて思わず「えっ」と言ってしまった。

「麗日、どうしたの」
「……ごめん、実操さん」
「??」

戸惑いつつ誘導してロビーチェアへと座らせる。麗日はぐっと顔に力を入れて泣くのを我慢していた。

「私、ずっとゼファー好きだったの」
「!」
「ゼファーは重力を操って戦うヒーローで、私、似たような個性だからずっと憧れてて」

麗日の言葉で、ゼファーが使っていた応用術の一つを思い出した。重力操作。私は全く出来ないので忘れかけてた。

「十年前の事故、すごく悲しくて……だから、ゼファーのこと思い出して泣きそうになっちゃって」
「……」
「私、避けるようなことしちゃった。気分悪くしたよね、本当ごめん」
「……麗日」
「実操さんの方がたくさん辛い思いしたのに」

眉を下げてすっかり悲しそうな顔をした麗日に、しばらく黙り込む。ロッカーの中はしん、と静まり返ってみんな心配そうにこちらを伺っていた。

「ねえ、麗日」

恐る恐る顔を上げた麗日の両手をそっと包み、正面にしゃがみこんだ。

「それだけゼファーを好きでいてくれてるってことでしょ? 凄く嬉しいよ。麗日が謝ることなんてないから」
「実操さん……」
「麗日には笑ってて欲しいな。ゼファーだって、ファンの子が泣くのは望まないだろうし。ね?」

首を傾げ極力優しい声を出して言うと、スンと鼻を鳴らした麗日がこくりと頷いた。あとひと押し!

「今日は門出の日なんだから、そんな暗い顔してたら勿体無いよ」

“個性”を使って大輪の花を創造していく。麗日の表情が晴れたように明るくなっていくのを見て、私までつられて笑顔になるのが分かった。

ピンクと白のイングリッシュローズをまとめて創造し、蔓で束ねて手渡す。「ほわっ」と不思議な声を発して受け取った麗日は、口元を緩めて花束を見つめていた。

「綺麗な包装紙もリボンも無いから、ちょっと不格好だけど」
「そんなことないよ! 凄く綺麗!」

子供のように目を輝かせている麗日が、満面の笑みで「ありがとう実操さん!」と言った。これで一安心、とほっと胸を撫で下ろす。すると斜め後ろから「うっ」という声が聞こえた。顔を向けると、ポニーテールの女の子が口元を抑えてこちらを潤んだ瞳で見つめている。えっ、具合悪い?

「だ、大丈夫? ここ座る? 吐きそう?」
「い、いえ……なんて素敵な……光景かと思いまして」

俊典さんへの対応が体に染み付いてすぐに駆け寄った私に、女の子は堪えるように肩を震わせて私達を見比べた。

「とても感動的なお話でした」
「そ、そう」
「あの……私、八百万百と申します」
「実操卯依、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。先ほどの実操さん、どの種目も“個性”を最大限に活かされていて、素晴らしかったです」
「ありがとう。八百万も凄かったよ。“個性”は創造?」
「はい。実操さんも植物創造の“個性”をお持ちのようですわね」
「ちょっと似てるね」
「はい!」

目を輝かせている八百万はなんだか可愛らしかった。汎用性はかなり差があるが、同じ創造“個性”持ちとなると親近感も沸く。その後更衣室の中で女子だけの自己紹介タイムが始まり、八百万と、もう一人の女の子、耳郎にもお近づきの印として花を手渡した。

「ウチ、実操と前に会ってるんだけど、覚えてる?」
「??」
「入試の日、駅で声かけたんだけど」

耳郎の言葉に思い出そうと脳みそを働かせる。駅で、声を……?

「あ、確かに……女の子に声をかけてもらったような?」
「具合悪いのかなってずっと心配だったんだ。無事受かってて良かった」
「ありがとう。あの時は心ここにあらずで」

首を傾げる耳郎に苦笑いで誤魔化し、ジャケットに腕を通す。

「それにしても、よく覚えてたね。一言ぐらいしか話さなかったのに」
「そりゃ、あんたの顔は一回見たら忘れないでしょ」
「?」