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駅を出て校舎を目指し歩いていると、遠目で門の周辺で集まっている人だかりを見つけた。昨日よりもマスコミの数が増えている。私は根津校長から密かに教えてもらっていた教師用の入口へと向かった。ゲートに設置された装置に生徒手帳を翳すと音を立てて扉が開く。
教室に辿り着いてドアを開け、入口付近のクラスメイトに挨拶をしてから自席へと向かった。窓側の列、前から三番目。鞄を机に乗せて教科書を取り出し準備をしているうちに、出久が登校してきた。
「お、おはよう、卯依ちゃん!」
「おはよう」
昨日の放課後に保健室へ行ったときは腕にギプスを巻いていたが、出久の腕にそれは無かった。だけど包帯は袖から見えていて、自然と視線が向いてしまう。それに気付いた出久が、焦ったように腕を摩って言った。
「そんなに重傷じゃないから、大丈夫だよ。それより……」
「?」
「花、ありがとう。すぐにお礼を言いたかったんだけど、連絡先交換してなかったから」
照れたように言った出久に、昨日の行動を思い出す。目が覚めるまで傍に居ようかと思ったけれど、情けない顔を見せたくなくて花だけ置いて帰ったのだった。
「……忘れてた。今時間あるし、やろっか」
「う、うん!」
出久が後ろの席につき、スマホを突き合わせて連絡先を交換する。ぼんやりとスマホを操作する間、出久の発言が引っかかっていた。「それより」、か。その後、様子を見ていた他のクラスメイトも集まってきて、ほとんどの人と連絡先を交換した。ついでに自己紹介がまだだった数名とも会話を済ませる。背の高いマスク少年、障子目蔵と、温厚そうな口田甲司、昨日の戦闘訓練で戦った常闇踏陰。話し終えたところで相澤先生が教室へとやってきてHRが始まった。
これで話していないのはエンデヴァーの息子一人だけ。彼が他の生徒と会話しているところは見かけない。人付き合いが苦手なのか、あえて避けているのか。高校に入学するまでの自分がそうだったから、必要に迫られない以上話す必要はないだろう。エンデヴァーの息子に興味が無い訳じゃないけれど、強い興味を抱いている訳でもない。エンデヴァーと子供は別だ。
「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに」
いろいろ考えているうちに話が進んでいたようで、顔を教卓の方へと向ける。
「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たーーーー!!!」
突然騒がしくなった教室内に驚く。全員が手を上げて立候補しているのを横目に、静かに頬杖をつく。収拾つかないだろうな。じゃんけんで決めるんだろうか。
「静粛にしたまえ!!」
後ろから聞こえた声に振り返った。
「“多”をけん引する責任重大な仕事だぞ……! 『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!」
教室の反対側にいる飯田の言葉に耳を傾け、体の向きを変える。自分の視覚と聴覚、それぞれで得た情報が噛み合っていなくて少し混乱する。
「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」
「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!!」
その後相澤先生の許可も出て全員で投票することに決まった。(寝袋で寝始めた相澤先生に慣れているみんなに驚いた)ほとんどが自分に入れるだろうけれど、私は委員長に興味はないので誰に入れようかと思考を働かせる。委員長らしく、先頭を切ってみんなを纏められるような積極性とリーダーシップ……。
私はちらっと斜め後ろを振り返り、投票用紙にペンを走らせた。
「実操さん、たくさん食べるねぇ」
「よく食べることは良いことだ」
大食堂で食事をとっていると、斜め向かいに座った麗日が私を見て呆気にとられたように呟く。飯田が「俺も負けていられないな」とハヤシライスを一口食べた。―――明日はハヤシライスにするか……。
横に座った出久と同じカツ丼を頼んだが、サイズは大盛り。ついでにかけそばと、昨日と同じように惣菜も大量に頼んだ。黙々と箸を勧めていると、三人の会話が委員長決めの話題になる。投票の結果は出久が三票で委員長、八百万が二票で副委員長。私は飯田に投票したのだけれど、本人は出久に投票したらしい。なんだか言動と行動がちぐはぐだなあ、と結果を聞いたときは肩を落とした。きっと意図があったのだろうけど。
「飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」
「“やりたい”と相応しいか否かは別の話……僕は僕の正しいと思ったことをしたまでだ」
飯田の発言に静かに考える。『正しいと思ったことをする』随分前、ベストジーニストに似たようなことを言われたっけ。懐かしいな……。
「そういえば、実操くんは兄の知り合いなのか?」
「?」
昔を思い出しているうちに随分と話しが進んでいたらしい。口の中にあったものを飲み込んでから、言葉の続きを待った。
「兄が君のことを心配していた。どういった仲なんだ?」
「……鬼ごっこする仲だった」
「??」
三人が揃って首を傾げたのと同時に、校舎にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。あやうくカツが喉につまるところだった。