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もやの中から敵の手が現れる。触れた物を破壊する“個性”、空中では体勢を変えられない、必死に頭を働かせていた時、銃弾が敵の手の平に撃ち込まれた。

「!?」

敵が攻撃を受けて後ろへと飛び退いていく。僕は勢いのまま地面へと転がっていき、聞き覚えのある声が施設中に響くのを聞いた。

「1-Aクラス委員長飯田天哉!! ただいま戻りました!!!」

顔をあげて施設の入口を見ると、雄英の教師達が勢揃いしているのが見えた。それと一緒に、外からはパトカーのサイレンの音も聞こえる。スナイプ先生の攻撃を受けて怯んだ敵達を13号先生のブラックホールで捕獲しようと“個性”を使っていたけれど、敵のワープゲートの方が早かった。

「今度は殺すぞ……平和の象徴オールマイト」

そう言い残して、敵二人は消えていった。

プロが普段相手にしているものたちは、その世界は、僕たちにはまだ早すぎる経験だった。

「何も……出来なかった」

痛みのせいで少しも動けない僕は、悔しさで拳を握った。

「そんなことはないさ」

オールマイトの声を聞いて、上体を持ち上げる。見上げた先に居たオールマイトは、マッスルフォームを維持できずにいた。

「あの数秒がなければ、私はやられていた……!」

卯依ちゃんがナイフを仕舞って僕のもとに駆け寄ってくる。やけに慣れた手つきで体の向きを変えられ、地面に座り込むような体勢にしてもらった。

「また、救けられちゃったな」

オールマイトの言葉と、支えてくれている卯依ちゃんの体温に、どばっと涙が出てくる。

「無事で……良かったです……!」

泣き続ける僕を支えてくれていた卯依ちゃんが、慌てたように身じろいだ。その視線の先にはこっちに向かって駆け寄ってくる切島くんの姿があった。……マズイ! オールマイトの姿はトゥルーフォームに戻ってしまっている。

「緑谷、実操! 大丈夫か!?」
「待って切島!」

初めて聞く卯依ちゃんの焦った大声に驚きつつ、僕も止めようと名前を呼んだ。だけどそれより早く、セメントス先生の“個性”で僕たちの間に壁が作られた。セメントス先生のフォローで切島くんが壁の傍から離れていく。安堵と共に息を吐いて力を抜いた瞬間に、卯依ちゃんが背中にくたっともたれかかってきた。

「!?」

体重はかかっていないけれど、柔らかい体が後ろに当たってたじろぐ。涙も鼻水も引っ込んで少しも動けない僕をよそに、卯依ちゃんは肩に額を押し付けて、震えた息を吐いていた。

―――卯依ちゃんも、怖かったのかな。

敵の襲撃直後、相澤先生の指示を受けた卯依ちゃんはいつものように冷静だった。恐怖なんて微塵も感じさせずに動いていた。だけど、本当は僕みたいに……僕たちのように恐怖でいっぱいだったのかもしれない。周りに見せないように隠していただけで。

指の折れていない右手を後ろ手に回して卯依ちゃんの手に触れる。

「もう、大丈夫だよ」

ゆっくり顔をあげた卯依ちゃんと至近距離で視線が合う。卯依ちゃんは眉尻を下げて、目を細めて小さく「うん」と呟いた。初めて見る表情と弱々しい声に息を呑んでいると、すぐ後ろで「邪魔して悪いね」と声がした。

「!?」
「オールマイトと緑谷くんは保健室へ、実操くんはゲート前に……その手は? 火傷しているようだけれど」
「根津校長。このぐらい、水で冷やせば平気です」
「―――なら外の水道で冷やしておいで。皆には僕から言っておくからさ」
「……オールマイトは」
「大丈夫、僕に任せて。さあ」

片腕を上げた小動物、校長の言葉を聞いて卯依ちゃんが立ち上がる。僕に「あとで保健室に寄るね」と告げてからセメントス先生と一緒にゲートへと向かっていった。オールマイトと僕は保健室でリカバリーガールの治療を受け、今はベッドで横になっている。

リカバリーガールも今回ばかりは小言が言えないと背を丸めていた。オールマイトは、活動時間がまた縮まっただろうと呟いて上体を起こす。その後保健室にやってきた塚内さんという刑事を紹介され、自然と全員の共通の知人である卯依ちゃんの話題になった。塚内さんは懐かしむように目を閉じて、ぽつぽつと出会いのことを話してくれた。