綿々のキス


※ヴィジランテ3巻の内容有り
※塚内直正視点




鳴羽田区で突発性ヴィランが大量出現した事件が起こり、トップヒーローを集めた会議が警察署で開かれることになった。NO.ヒーローであるオールマイトもその参加者として声をかけることになったが、彼は事件が発生すると現場へ駆け付けてしまうため、他のヒーローとスケジュールを合わせることが出来なかったので、担当になった私が六本木の事務所に向かうことになった。

マイトタワーの最上階でオールマイトの姿を見たときは、多忙すぎて話しかけることが出来なかった。先輩から貰っていた名前の書かれたメモを出して、受付の女性に第二秘書室のヤギさんは何処かと訊ねると、ちょうど受付に居た男性が振り向いた。二人でビルの下にある喫茶店に向かい、オールマイトへの伝言を話した。その途中で何度も八木さんは席を立ち、喫茶店の窓から見える外では何度もオールマイトが救助活動をする姿が目撃された。救助活動する姿をテレビの中継で見守りながら、画面の中のオールマイトが抱えていた猫を八木さんが抱えて戻ってきた時、私は言葉を無くした。

「八木さん……その猫は?」
「あっミーちゃん!」

スーツの下に見えているのはオールマイトと同じコスチューム。きっと私でなくとも気付いただろう。八木さん……もといオールマイトはこの事を内密にして欲しいと言って頭を下げた。それは勿論、と頷いてから最も伝えたかったことを本人に話す。警察内部で問題になっているオールマイトの非正規活動について。報告書を出して欲しいと伝えると、報告書の作成は凄く大変で、と泣かれてしまった。事務員とは正体を隠すために距離を取らなければならず、これまでは優秀なサイドキックが居たが今は訳あって居ないのだと聞かされた。

「でも、ちゃんと出てる日もありますよね」
「それは……卯依にお願いできた時だけで……」
「卯依?」

突然出てきた名前に首を傾げる。正体を知っている人物が居るのなら、正式に事務職として雇えばいいのではと提案すると、オールマイトは困ったような顔をした。不思議で仕方なかった私に、オールマイトは「そろそろ学校が終わってこっちに来るだろうから」と言った。学校? 大学生だろうか。ならバイトとして……と色々考えていた私は、喫茶店に現れた卯依という人物が赤いランドセルを背負った小学生だと知り、体に雷が落ちたような衝撃を受けた。

「この子が……卯依、ちゃん?」
「誰ですか」

警戒心の強い様子の少女に、警察手帳を見せる。少しだけ肩の力を抜いたその子は、オールマイトの隣に座ると慣れたように紅茶を頼んだ。やってきた紅茶にミルクを混ぜている姿は普通の子供だ。もしかして娘さんだろうか、と思ってオールマイトへと視線を向けると、オールマイトは「友人の子なんだ」と少し寂しそうに微笑んだ。

「どうして警察が? 俊典さんになんの用ですか」
「ああ……えっと、オールマイトの非正規活動についてちょっとね」
「非正規活動? 報告書ならちゃんと、」

ハッとした表情でオールマイトを見る少女が、わなわなと口元を震わせる。

「もしかして、あれで全部じゃなかったの!?」
「だ、だって……真夜中に書類作業してる卯依を見てたら言えなくて……」
「それで問題になってるんじゃない!」
「ウッ」

私を気にして小声で話す少女に叱られて身を縮めているオールマイト。なんだか凄い光景を見ているなあ、とコーヒーを一口呑んだ。

「てっきり忠告を聞いて、控えてくれてるんだとばかり……」
「卯依……」

しょんぼりした様子の少女に、オールマイトが慌て始める。まるで親子のような関係の二人をただ見守る。

「警察が出てくる前に言ってくれたら良かったのに」
「だって怒ると思ったから」
「当たり前でしょ!!」
「ハイ……」

あれ、どっちが親だ、これ……。ヒートアップした怒りを宥めるために、ある解決策を提案した。女の子にも学校があるだろうし、子供が真夜中に起きて報告書を作るという環境は好ましくない。予定外の活動があったときは、自分に連絡をくれれば緊急出動として正式に手続きしておくと伝えると、二人の顔がぱあっと明るくなった。

その日の夜から連絡がひっきりなしに来てデスクワークが一気に増えた。先輩はこれを見越して私を担当にしたのだと気付き肩を落とした時期もあったけれど、しばらく経ってからオールマイトに「卯依が真夜中に起きていることが無くなった」と嬉しそうに話すのを聞いた時、何故か彼の喜びが伝染したように胸が温まった。子供の睡眠時間を確保できていると分かれば、なんとなく連絡を受けるのが苦ではない気がしたのだ。