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塚内さんが六年前の話しをしているとき、オールマイトはずっと恥ずかしそうにしていた。僕はというと、卯依ちゃんも怒鳴ることがあるんだなと驚いて思わず口に出してしまっていた。それを聞いた塚内さんはおかしそうに吹き出して、「卯依はオールマイトにはしょっちゅう怒鳴ってたよ」と笑った。
それを聞いたオールマイトが反論しようと身振り手振りを交えて返す。
「最近は怒らなくなったよ」
「呆れてるんだよ全く」
「ウッ」
リカバリーガールの一撃で沈んだオールマイトが、再びベッドに体を沈める。僕はその光景に苦笑するしかなかった。
「この六年君たちを見てきたけれど、卯依が怒る理由のほとんどは君だ」
塚内さんの言葉に、オールマイトは複雑そうに顔をしかめていた。けれど、続いた言葉に表情を変える。
「それだけ君を心配してるんだよ」
オールマイトは驚いたように塚内さんを見ていたけれど、脱力してから頬をかいた。照れくさいことのように、嬉しさを誤魔化すように。
少し前の卯依ちゃんの様子を思い出す。活動限界を迎えて動けないオールマイトを救おうと駆け出したり、最後まで心配していたり。それほど卯依ちゃんにとってオールマイトは大切な存在なのだろう。塚内さんにつられて笑っていると、保健室の戸が叩かれる。「実操です」という声が聞こえてリカバリーガールが入っていいよ、と声をかけた。
「失礼します」
保健室に入ってきた卯依ちゃんは既に制服に着替えていた。扉を閉める手が赤かったのを見て、リカバリーガールがすかさず「なんだいその手!!」と叫んだ。卯依ちゃんは咄嗟に腕ごと後ろに隠してしまう。
「ちょっと、色々あって……冷やしたから平気です」
「いいからこっちおいで!」
リカバリーガールに促されて塚内さんの隣に腰掛ける卯依ちゃん。リカバリーガールの勢いにたじろいだ様子で、おそるおそる赤い手を前へ出した。
驚いた様子のオールマイトががばっと起き上がる。僕も重い体を持ち上げて卯依ちゃんの手を見た。さっき見た手首の部分だけじゃなく、グローブに包まれていた部分も赤く染まっていた。しかも手の平全体が深い火傷を負っている。痛々しいその状態に息を呑んだ。
「なにをしたらこんな怪我に……」
塚内さんも立ち上がり、心配そうに見下ろしている。オールマイトが説明を促すように卯依ちゃんの名前を呼んだ。
「グローブ、耐熱性じゃなかったから、火傷した」
悪いことを報告する子供のように目を逸らして言った卯依ちゃんを見て、リカバリーガールの怒りの矛先はオールマイトへと向かった。
「あんたが無理するのを見て子供は育つんだよ!」
「返す言葉もございません……」
リカバリーガールの指が卯依ちゃんだけでなく僕に向いているのを見て、視線を逸らす。卯依ちゃんはすぐにリカバリーガールの治療を受けて「うっ」と呻き声をあげてオールマイトのベッドに突っ伏した。その状態のままてきぱきと包帯が巻かれていく。
「休むなら横になったほうが……」
僕の言葉を聞いた卯依ちゃんが朦朧とした表情のままオールマイトの寝ているベッドに乗り上げる。
ぎょっとしている僕をよそに卯依ちゃんはぱたりと力尽きてオールマイトの横に倒れた。
「……どうしよう」
すーすーと穏やかな寝息を立てている卯依ちゃんを見下ろしてオールマイトが呟く。リカバリーガールが「教育委員会とイレイザーヘッドには言わないでおくよ」と言い放った。塚内さんは慣れた手つきで、オールマイトが使っていた掛け布団を卯依ちゃんにも掛けてあげている。
「にゃあん」
突然背後から猫の鳴き声が聞こえて飛び上がる。顔を向けると真っ白い猫が窓枠に居た。猫は軽やかに飛び降りて床をてくてく歩いていき、オールマイトの寝ているベッドの上へ飛ぶ。
「……君はこの前の」
どうやら知っている猫のようで、オールマイトが手を伸ばした。大人しく頭を撫でられた猫が、オールマイトの左側、卯依ちゃんの反対側に座り込み体を丸める。
そのまま赤い目を閉じて眠ったマイペースな白猫の姿に言葉を探していると、リカバリーガールが驚いたように言った。「別嬪さんが懐くなんて、珍しいこともあるもんだ」と。
「別嬪さん?」
「その子のあだ名。みんな好き勝手呼んでるのさ」
触り心地の良さそうな背を呼吸と共に上下させている白猫は、気持ちよさそうに眠っている。オールマイトを挟んだ奥では白髪の卯依ちゃんが眠ってる。……なんだか、
「似てますね」
僕の言葉に、オールマイトが「だろう?」と笑う。どうやら前から思っていたことのようで、微笑ましいものを見るように一人と一匹を見てから、それぞれの小さな頭を撫でた。その平和な光景に、僕はやっと日常に戻れた実感が湧いてベッドへと体を横たえる。
頭を撫でられている卯依ちゃんの表情がさっきよりも和らいでいるように見えて、心の底から安心したのだった。