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その日の放課後、帰り支度を終わらせて立ち上がると、お茶子の驚いた声がした。なにやら騒がしいと思っていた原因は廊下に溢れた人だかりであり、その異様な光景に目を細める。出久に続いてお茶子へと近づくと、その人だかりは好奇心を隠せない様子で騒ぎ、教室を覗いていた。
「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」
「敵情視察だろザコ」
峰田の発言に爆豪が吐き捨てるように言う。相変わらずの口の悪さに慣れている自分に気付きつつ、集団へと向かっていくその背を見送った。敵の襲撃を耐え抜いた生徒を体育祭の前に見に来たんだろうと語った爆豪は、不機嫌さを隠すことなく言う。
「意味ねェからどけモブ共」
「知らない人のこととりあえずモブって言うのやめなよ!!」
注意する飯田、あわあわしている出久を横目に、爆豪の背を見つめる。言い方に問題はあるけれど、
「まあ、実際爆豪の言う通りかも」
「えっ!? 卯依ちゃん」
「“個性”を使う授業を見学する訳でもないんだし、その行動に意味はあるの?」
「実操くん!」
「物見遊山としか思えない」
スマホのレンズをこちらに向けている生徒へ視線を流すとバツが悪そうに腕を下ろした。それでもざわついた騒音は消えない。
あちこちでゼファーの名前が出ていることは聞こえていた。ヒーロー科を受けて落ちてしまった生徒の中で普通科へ進んだものも少なくないだろう。試験で同じ会場だった一年が気付いていたらあっという間に噂は広がる。これは、もう校内の人間にはほとんどバレてると思っていいな。
「どんなもんかと見に来たが、ずいぶん偉そうだな」
考え事をしていた私がその声を聞いて顔を向ける。紫の髪を逆立てた男子生徒が、人をかきわけて前へ出てきた。
「こういうの見ちゃうと、ちょっと幻滅するなぁ」
爆豪と向かい合って話している生徒を見上げる。
隈の目立つ表情と気だるげな雰囲気とは裏腹に、発言にはかなりの棘が含まれている。
「ヒーローの子供なら、尚更」
ちらりと下ろされた視線とかち合う。すっと熱が引いていくような感覚がしてすぐに、爆豪の舌打ちが教室に響いた。
「敵情視察、物見遊山? 少なくとも
敵対心剥き出しのその言葉に、沈黙が続く。するとすぐに聞き覚えのない大声が聞こえ、顔を向けると目元に特徴のある男子生徒が居た。
どっかで見たことあるような気がする……。彼が言うには隣のB組の生徒らしく、廊下ですれ違ったか? と首を傾げてから思い出す。入試のときに心配してくれた受験生だ。受かっていたのか。
「エラく調子づいちゃってんなオイ!! 本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
もしかして私も爆豪と同じ括りにされているのでは? いや、気のせいだろうか。単純な疑問を口にしただけで、ザコともモブとも思ってない。
しばらく静寂があたりを包み、視線が集中していた爆豪は人ごみをかき分けて帰ろうとする。その背に切島が叫び、ヘイトを集めてしまったことを怒った。
「上に上がりゃ、関係ねえ」
爆豪のシンプルな言葉に、切島が納得したように感心する。上鳴が「敵を増やしただけ」と言ったのを聞いて、首を傾げた。
「数は変わらないでしょ。自分以外、全員が敵なんだから」
周囲の視線が自分に向けられる。
常闇が一言、「確かにそうだ」と呟く。
「ヒーロー科に在籍している時点でヘイトは向けられるものだし、そもそもヒーローなんてアンチが居て当然の世界でしょ。今のうちに慣れる場があって良かったんじゃない」
「そ、そういうもんか?」
「そういうものです」
切島の言葉を受け流しつつ足を進める。宣戦布告の生徒の目前で立ち止まり、その顔を見上げた。
「名前、聞いていい?」
「……心操人使」
「私は実操卯依」
「……」
「名前、覚えとく」
返事を聞くつもりはなかったので、その横を通り過ぎて人だかりの前で止まる。「帰るから通して」と言えば、怖がられつつも退いてくれたのでありがたく帰らせてもらった。聞いたばかりの名前を心の中で繰り返して脳に刻み込む。憂鬱でしかない体育祭も、ただの習慣となっていた訓練も、今なら少し楽しめそうだ。