5
大食堂での食事も、煩わしい周囲の視線にも慣れた頃。
一緒に食事をしているのは馴染みの面子ではなかった。
「よく食うな」
「……」
無表情のままこちらを見上げている轟を無言で見つめ返し、お盆を机へと下ろす。向かいの椅子を引いて腰掛け、改めて轟を見た。轟の手元にある一人前のそばに目を落として口を開く。
「それで足りるの?」
「ああ」
「……そう」
私が来るのを待っていたようで、轟は手を合わせて「いただきます」というとそばを食べ始めた。
「……いただきます」
数秒遅れて手を合わせ、私も食べ進める。今日はハンバーグ定食の大盛りを選んでみた。昨日、お茶子が美味しそうに食べているのを見て食べたくなったのだ。人が食べてるものってどうしてあんなに美味しそうに見えるんだろうか。お茶子が美味しそうに食べてたからかな。
「実操」
存在を忘れてハンバーグに集中していた私は、轟の低い声が聞こえて視線をあげた。箸を止めた轟がじっとこちらを見ている。
「おまえの“個性”、なんなんだ」
「……なんなんだと言われても」
質問の意図が分からずに聞き返す。轟は尖った雰囲気を隠すこともせずに続けた。
「ゼファーの“個性”とまるっきり同じって訳じゃなさそうだな」
「……他の血が混ざれば“個性”も変質するでしょ」
急に話があると言い出すから何かと思えば……よりにもよってゼファーの話とは。てっきりエンデヴァーのことかと思ったのに。
「体育祭も近いのに“個性”の詳細をベラベラ話す訳ない」
「……」
ほとんどにらみ合いの状態になっている私達の空気を察してか、私と轟の両隣は空席だ。というか同じ机で食事していた生徒が席を立って移動している。
「エンデヴァーから、おまえのことを聞かされた」
轟の表情はまるで仇を討つような形相で、少なくとも接点のないクラスメイトを見る顔ではなかった。気づかないうちに怒らせるようなことをしただろうか。
「俺は、あいつの力を使わずに一番になる」
「……」
「お前とは違う……。父親の道具にはならねえ」
「は?」
聞き捨てならない発言に思わず不満の声が溢れる。轟は相変わらずこちらを睨んでいて、敵意剥き出しだ。……なんなの、こいつ。
「体育祭で、お前に勝つ」
真っ直ぐ突き刺さってくる視線。轟の発言に周囲の音が止んだように静まり返る。よりにもよってこんな場所で言わなくても良いだろうと思うが、数日前に受けた宣戦布告を思い出した。流行ってるのか。
轟は私の返事を待っているのか、黙りこくっている。怒りやらなんやらで頭の整理は出来ていなかったが、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出す。怒鳴ったりしないように、攻撃性は出さないようにと気をつけて。こんなところで喧嘩なんてしたくない。ナイトアイに報告されたら大変なことになる。
「……正直、体育祭は乗り気じゃなかった。ゼファーの子供だって大勢に知られる。その後のことを考えたら面倒だもの」
「……」
「だけど、心操のことがあったから手は抜かない。本気でやる。誠実な奴に弱いんだ、私」
「……おう」
「でもあんたからは誠実さの欠片も感じられないから、タイマンでやる機会があったらボコボコにしてやる」
「オイッ!! 実操!!」
いつから聞いていたのか、真後ろから切島の声がして振り返る。後ろのテーブルに座っていたようで、そばには上鳴や瀬呂、爆豪(驚き)も居た。戸惑ったような表情をしている切島と瀬呂。笑いを堪えている上鳴。爆豪は口を開いて変な顔をしていた。不思議な面子だこと。爆豪、友達作れたんだ。
「実操が大人の対応で受け流すと思ったのに……斜め上を行ったな」
「女版爆豪かよ」
「どういう意味だアホ面テメェ!!」
「アホ面って酷くね!?」
「こんなところで喧嘩すんなよお前ら!」
わちゃわちゃと騒ぎ始めた上鳴達のお陰か、大食堂の雰囲気も和らいだ(気がする)。いつもの空気に戻った周囲を横目で見てから、体の向きを正面へと戻すと轟はほんの少しだけ尖った空気を引っ込めてそばを食べていた。本当になんだったんだ。