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昼休み、いつものように卯依ちゃんと飯田くん、麗日さんの四人で教室を出ると、轟くんが卯依ちゃんに声をかけた。話があると言って二人で食堂へと向かう背中を見送る。

「轟くんがあんなこと言うなんて、珍しいね」
「そうだね……」

轟くんの鋭い視線も心配だし、卯依ちゃんが冷たい表情をしていたのも気になる。麗日さんや飯田くんも同じように悩ましげな表情をして顔を見合わせた。

食堂へつくと、自然に二人を目で探してしまう。きょろきょろしてあたりを見渡すと轟くんがそばを持って席へと向かっていくのが見えた。卯依ちゃんはいつものように大盛りの定食を乗せたお盆を持ってその後を追っている。数メートル離れた距離が、卯依ちゃんの心境を表しているようだった。

僕たちも注文を終わらせて、卯依ちゃん達と少し離れた位置に座る。話の内容は聞かれたくないものかもしれないから、ぎりぎり聞こえない距離。それでいてなにかあったらすぐに止められる距離。

と考えていたのは僕たちだけじゃなかったようで、切島くんや上鳴くんが卯依ちゃんの真後ろの席へと腰掛けていた。偶然そこにいたかっちゃんが少し喚いていたけれど、轟くんたちの耳には届いていないみたいだ。

食堂にいた僕たちA組はみんな(かっちゃん以外)心配そうに二人を見守っている。轟くんと卯依ちゃんが揃っている光景が気になるのか、それとも二人が醸し出す不穏なオーラがそうさせたのか、食堂はいつもの活気がない気がする。卯依ちゃん達の周りは空席ばかりで、誰も近づこうとしない。隣に座るには勇気が必要、それぐらいの雰囲気だった。

「あの二人、大丈夫かな」

麗日さんが心配そうに呟く。轟くんが一方的になにかを話し始め、卯依ちゃんの表情はどんどん険しくなっていくばかりだ。これはちょっとマズイかもしれない、と立ち上がるより先に、卯依ちゃんが脱力したように体の力を抜いたのがここからでも見て分かって動きを止める。

卯依ちゃんがなにかを口にし、真後ろにいた切島くんが慌てたように立ち上がる。上鳴くんは口を抑えて笑いをこらえているようだった。……なにを言ったんだろう。

轟くんと卯依ちゃんはそれから一言も発さずに食事を終えてばらばらに席を立った。僕はほとんど箸の進んでいなかったカツ丼を掻き込むようにして食べて、急いで後を追う。けれど教室にもどこにも卯依ちゃんの姿はなく、結局予鈴が鳴る直前まで卯依ちゃんは教室に戻ってこなかった。席についた卯依ちゃんはいつもの無表情と落ち着いた雰囲気に戻っていて安心したけれど、食堂で見た卯依ちゃんの姿を思い出して不安で口を開く。「卯依ちゃん、大丈夫?」と聞くと、卯依ちゃんは少し目を丸めてから視線を逸らして「なんでもない」と言った。

なんでもなく、ないよな。






「卯依ちゃん!」

HRを終えて立ち上がった卯依ちゃんの名を呼ぶと、白い髪を揺らして振り返る。

「い、一緒に……帰ろう!」

卯依ちゃんは久しぶりの強い目力を発動させて僕を見て、こくりと小さく頷いた。






僕がお昼のことを切り出せたのは、下駄箱についた頃だった。轟くんになにを言われたのかと聞いた僕に、卯依ちゃんは「宣戦布告されただけ」と簡潔に答えた。

「……卯依ちゃんはなんて答えたの?」
「別に、ボコボコにしてやるって言った」
「ぼっ!?」

予想していない返答に言葉をなくしつつ、そっかと頷く。宣戦布告されただけにしては、普通科の人に言われたときと反応が随分違う。あの時の卯依ちゃんは楽しそうだった。好奇心を刺激された子供のように。でも轟くんと居た卯依ちゃんは、今の卯依ちゃんは……

「怒ってる、よね」

下駄箱からローファーを出した卯依ちゃんが動きを止める。すぐにまた動き出して靴を履き替えるのをただ見ていると、卯依ちゃんはぽつぽつと語った。その表情は長い髪で隠されていて見えない。

「あいつ、面倒くさい」
「……そっか」
「ゼファーゼファーうるさいし」
「うん」
「……もうこの話はしたくない」

僕は分かったと答えて自分の靴を履き替える。卯依ちゃんは居心地が悪そうに、少し気まずそうに顔を背けていた。駅へ向かう途中、出会った頃のように他愛もない話をしているうちに、卯依ちゃんはいつもの様子に戻っていた。

小石を蹴り飛ばしてよろけた卯依ちゃんの手を引いて、小テストや美味しかった食堂のメニューの話をして、ふと横を見ると卯依ちゃんは空を見上げていた。空の明るさで照らされた赤い瞳がきらきらと光って見える。

僕は卯依ちゃんがなにかとぶつかったりしないように前方に注意を向けつつ、同じように空を見る。そこにはまばらな雲が転々として、少し赤みを帯びた青色が広がっていた。