光の纏足
参加種目の決定、それに伴う個々人の準備。私はいつものように日曜の訓練を受ける日常を送り、二週間はあっという間に過ぎた。そして、とうとう雄英体育祭当日。
体操着に着替え、クラスごとに与えられた控え室で入場の時間を待つ。落ち着かない様子のお茶子に梅雨ちゃんが水を手渡したり、峰田が手のひらに人と書いて呑み込んでいたりと、クラスメイトはかなりそわそわとした様子だった。出久も緊張を隠せない様子で胸元を抑えている。
“個性”の扱い、大丈夫だろうか。
気になって出久を横目に見ていると、轟が出久に話しかけた。珍しい組み合わせに、自然と顔が向く。視界の端で爆豪も同じように二人を見ているのが分かった。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
淡々と言う轟に出久は吃驚しつつも納得して頷いている。どうしてあんな言い方しか出来ないのだろうか……男子ってみんなそうなのか?
「おまえには勝つぞ」
「急にケンカ腰でどうした!? 直前にやめろって……」
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」
切島の仲裁を払いのける轟に、部屋中の視線が向けられる。不安そうに見守られている中で、出久は両手を握り締め、俯きがちに口を開いた。
「そりゃ君の方が上だよ……実力なんて大半の人に適わないと思う……。客観的に見ても……」
少し低い声で話す出久に目を細める。切島が出久に、ネガティブなことを言うなと声をかけると、それを遮るように「でも!」と強い口調で話す出久の声が耳に届いた。
「皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって遅れを取るわけにはいかないんだ」
「……」
「僕も本気で、獲りに行く!」
これまでに見たことが無いような表情をする出久に、ただ目を見開いていることしか出来ない。轟は少し黙ってから「ああ」と答えて踵を返していった。それからすぐに飯田の元気な号令に促されて部屋を出る。会場へと向かう途中、並んで歩く出久の赤いスニーカーから視線を上げていき横顔を見た。
眉をきりっとつり上げ、まっすぐ正面を向いて歩く出久はこれまで彼に抱いていた印象を塗り替える雰囲気を纏っている。
「……」
「……? 卯依ちゃん、どうかした?」
「……出久、知らない人みたい」
「ええ!?」
慌てた様子で汗をかく出久に、ほっと息を吐く。知ってる出久に戻った。
「……??」
不思議そうに首を傾げている出久に「気にしないで」と言って足を進める。困惑している声が横から聞こえたけれど、気にせず会場へと向かった。
「雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の―――」
……うるさ……。英語担当プレゼント・マイク先生のアナウンスに耳を塞ぐ。授業中の肉声で既に煩かったのに、マイクを通したらダメだろう。両耳を塞いでいるとぼそぼそと横から声が聞こえた。手をそのままに横を向くと、出久が眉を下げてこちらを見ている。その口がもごもごと動いているので何かを話しているのは分かるけど、マイク先生の爆音アナウンスと、自分が耳を塞いでいるせいで何も聞こえない。
「―――ちゃん―――うぶ?」
ずいっと体を寄せて出久の口元の動きを見る。出久は少し驚いたように体を仰け反らせようとしたけれど、飯田にぶつかりかけて慌てていた。アナウンスが中断され、脳を揺らす騒音が止んだことで手を離す。
「卯依ちゃん、大丈夫?」
「うん。ちょっとうるさくて」
出久は困り顔のまま笑ってこちらを見ていたけれど、ゲートを超えて会場へ一歩踏み入れると途端にぎこちない動きで表情を強ばらせた。
「わあああ……人がすんごい……」
震え声を出す出久を気にしつつも足を進める。客席は人で溢れ、歓声も凄まじい会場の様子に、始まったばかりだというのに嫌気がさしてくる。人ごみと騒音……。
その後一年全員が会場に出揃うと進行役としてミッドナイト先生が現れた。いつ見ても凄いデザインのコスチュームだな。アウトじゃないのか、あれ。