2


ミッドナイトの言葉を聞き、選手宣誓として壇上に立ったのは爆豪だった。両手をポケットに突っ込んだまま段差を登っていくその後ろ姿を見つめる。転んだら大怪我しそう。

マイクの前に立った爆豪が無表情のまま「せんせー」と気だるげに呟く。

「俺が一位になる」

言い終えた途端にブーイングの嵐が起こった。やっぱり高校生男子ってみんなこういう言い方をするんだな。ようやく分かった。頷いていた私に、お茶子が「卯依ちゃん納得しとる……」と戸惑いを隠せない声で言うのが聞こえる。

なおも批判の声が止まない中で、爆豪は追い討ちをかけるように「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」と言って首を切るジェスチャーを見せた。

A組の列へと戻ってきた爆豪はさりげなく出久の肩とぶつかって後ろへと下がった。何故ぶつかる……?

まだ落ち着かない生徒たちを切り替えさせるようにミッドナイト先生が進行を始める。まずは予選、という言葉と共にディスプレイに映し出された第一種目は「障害物競走」。

「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周4km!」

少し離れた位置にあったゲートの形状が変わっていき、かなり狭い外への門が開かれる。上にある三つの丸い照明は赤く灯っており、それが全て消えたら競技が開始するということだろう。

「我が校は自由さが売り文句! ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」

位置につくように指示を受け、生徒たちが足早にゲート前へと向かっていく。―――あの広さだと、スタート直後はかなり混雑するはず。私にはあまり関係が無いが、以前大食堂で経験したような圧迫感はゴメンなので大人しく最後尾スタートにしよう。


全員が位置につき、ゲートを向く。


静まり返った空間。先ほどまで騒がしかった客席も、いまは水を打ったような静けさだ。広々としたスペースの中でストレッチをして体を伸ばす。肩を回して力を抜いたところで、三つ目の明かりが消えた。

「スタート!!」







一斉に生徒全員が駆け出し、狭いゲートへ一直線に突き進む。案の定ゲート付近は人がごった返していた。押しのけたり引っ張ったりと、かなりの混雑具合である。

「……地獄絵図」

数歩歩いてから“個性”を発動して地を蹴り、空中へと飛び上がる。下から掴まれたり妨害されたりすることがないように、ゲートの天井すれすれを飛び前へ進むと、先頭に目立つ紅白頭を見つけた。轟だ。姿が視界に入った瞬間、轟の足元が後方へ向かって広範囲に凍っていく。

初見だったらここでリタイアだろうか。足が凍ってしまっては走れない。

あえなく罠にかかり動けなくなっていく生徒を上から見下ろして飛んでいく。

「甘いわ轟さん!」

八百万の声がしたと思い顔を上げると、見慣れたクラスメイトたちが飛び上がり氷を避けているのが目に入った。爆豪も「そう上手くいかせねえよ半分野郎!」と轟の後をついていく。“個性”を把握しているクラスメイトならば当然避けられるか。

「くらえオイラの必殺……!」

なにかをしようと構えた峰田の体がロボットのアームによって吹き飛んでいった。そうか、最初の障害物はコレか。

ヒーロー科実技入試で相対した仮想敵。それも四種類すべてが揃ってる。入試では一体だけだった巨大仮想敵がコース上に所狭しと並んでいた。

(上から抜けるか)

グン、と高度をあげてその頭上を抜ける。二体、三体と追い越したところで、その後ろに居た仮想敵がアームを振り上げてきた。さすがに黙って通らせてはくれないよね。アームが当たる寸前で身を躱し、勢いのまま頭部付近に着地する。

右手で機体に触れ、自身のエネルギーを操作する。このデカさの機械にも通用するだろうかと首を傾げつつ、強制シャットダウンへとシステムを弄る。

断続的な機械音を発して仮想敵が動きを止める。

―――良し、効いた。

複雑な操作じゃなく、強制的に電源を落とすことなら可能なのか。入試のときはあの巨体がビルや受験者の上に倒れたら減点されそうだ、と思いこの方法は試さなかったのだ。

中途半端にあがっていたアームが重力に従って垂れ下がり、その揺れで上体部分も後ろへと傾く。

解除していた“個性”を使用してもう一度空中に浮かんだ。明かりの消えた照明の部分をじっと見下ろしていると、背後から冷気を感じて視線を動かす。地面に倒れ込んだ仮想敵の横を走り抜ける轟が、以前食堂で見たときのような鋭い眼光でこちらを睨んでいた。

―――めんどくせ〜

思わずうんざりとした表情になってしまった自分の頬を軽く叩く。内心で吐き捨てたそれはジーニストが聞いたらお説教確定の言葉遣いだ。深いため息を吐いてから集中し直す。

日光からのエネルギー吸収と自身へのサイコキネシスを継続させながら、地面を歩く紅白頭を追うように上空を飛び続ける。これ、ずっと飛んでたら楽勝じゃん。今日は天気も良いし雲も少ない。この雲量なら晴れだななんて呑気に考えていた私は、後ろから聞こえたモーター音に振り返る。そして視界に入った大量の空を飛ぶ仮想敵の姿に、頬を引きつらせるのだった。あんなの入試に居なかったじゃん……。