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卯依ちゃんはそれ以来、月に二、三回のペースで僕に会いに来た。オールマイトと一緒に来ることも稀にだけれどあって、僕の特訓の手助けをしてくれている。(オールマイトの考えてくれた食事メニューは、卯依ちゃんのアドバイスを多く取り入れたものらしい)
卯依ちゃんも僕と同じく雄英高校を目指しているようで、過去の入試問題集を手に勉強しているのをよく見かけた。
雄英の入学試験は筆記と実技試験だ。僕がもっぱら心配なのは実技試験の方なんだけど、そういえば卯依ちゃんはどんな特訓をしているんだろう。腕立て伏せのノルマを終えると、重りとして僕の背中に座っていた卯依ちゃんがゆっくりと立ち上がった。(オールマイトが居ない日は彼女が上に乗ってくれるのだけれど、慣れるまでにかなりの時間がかかった)
「卯依ちゃんはどんな特訓をしてるの?」
問題集から視線をこちらへ向ける卯依ちゃんが、うーんと考えるように首を傾げてから言った。「あんたと同じようなこと」脳裏に巡るゴミ拾いやランニングの様子が思い浮かぶ。「ゴミ拾いはしてないけど」と頭の中を覗いたように言われて「そうだよね」と額を流れた汗をタオルで拭った。
「私はあんたらみたいな“個性”じゃないから。腕力付けるだけじゃダメなの。そもそもあんまり筋肉つかないし」
「そういえば、卯依ちゃんの“個性”って」
初めて会ったときに人の気配を探っていたから、探知系の個性なのだろうか。逃げ遅れた人や隠れた敵の存在も探知できるのなら、ヒーロー活動にもってこいの能力だ。卯依ちゃんはじっと僕を見つめてから(目力が凄くていつも怯んでしまう)、「超能力」と言った。
「超能力!? す、すごい!」
「……」
「超能力って物を浮かせたりテレパシーを使ったり、未来を予知したり!? そうか、探知能力もエネルギー操作の応用で……確か、超能力を使うヒーローが居たような……あれは」
「ねえ」
「?」
「そろそろトレーニング戻らないと」
「!!」
卯依ちゃんの言葉を聞いて、体に雷が落ちたような感覚に陥った。そうだった!! つい集中してしまった! 一瞬一秒でも無駄には出来ないのに! 卯依ちゃんはつまらなそうに僕を見て、「じゃあ次は腹筋ね」としゃがみこんだ。慌てて謝罪を口にしてから地面に寝そべる。卯依ちゃんがいつものように僕の足の上に座り込んでふくらはぎを抱きかかえた。これに慣れるのにもかなりの時間がかかった。正直未だに体が固まってしまう。
頭の後ろに手をやって上体を上げていく。カチ、カチ、と卯依ちゃんがカウンターを回す音が聞こえる。卯依ちゃんを見ながら腹筋をするのは気まずくて、僕はいつも目を逸らしていた。膝が揺れるたびに卯依ちゃんの体にぶつかってしまい、その度に思考が乱れる。これは試練だ、と自分に言い聞かせてオールマイトの顔を思い出す。卯依ちゃんは足を抱えた状態のまま地面に置かれた教科書を読み耽っている。気にしてるのは僕だけだ。始めの一回で卯依ちゃんにそれとなく伝えて頭を下げると、「例えば人命救助中に女性の体に触ってしまったとして、いちいち固まってたらヒーロー活動ままならなくない?」と返されてしまった。ごもっともである。
「今何考えてるか当ててあげようか」
「え!?」
思いがけない言葉に中途半端な体制のまま動きを止める。そうだ! 超能力!! 僕が考えてたこと全部お見通しだったのか!? きっと青ざめているだろう僕に、卯依ちゃんはゆっくりと瞬きをした。赤い瞳が一秒もかからずに金色へと変化する。“個性”を使用すると瞳の色が変わるのだろうか。目を逸らせずにいる僕に、彼女は怪しげに微笑んで言った。
「お腹空いたな〜って思ってるでしょ」
「……へ?」
間抜けな声を出した僕に、卯依ちゃんは「冗談。テレパシーなんて使えないよ」と言った。脱力して地面に背中をつけると、卯依ちゃんは「お腹が空いてるのは私」と付け足した。「まだノルマ終わってない」ぽんと膝を叩かれ、慌てて腹筋を再開する。卯依ちゃんはやっぱりつまらなそうに教科書を見ていた。カウンターを回しながら、たまにあくびをこぼす彼女の横顔を見ながら卯依ちゃんの“個性”を考えていた。