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月日が流れ少し肌寒くなった頃から、卯依ちゃんは滅多に顔を見せなくなっていった。オールマイトも忙しそうにしていて、最近はほとんどが一人だ。久しぶりにオールマイトが顔を出してくれたときに卯依ちゃんのことを聞くと、強化合宿に行っていると教えてくれた。学校の行事ですかと聞くと、オールマイトは「しまった」と言わんばかりに口元を抑えて「……いや、個人的な、特訓さ」と口を濁して言った。なにか聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。僕は慌てて話題を逸らし、砂浜のゴミを持ち上げた。
「おーい」
それから数日が経って、海浜公園を片付けていた最中だった。遠くから聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには卯依ちゃんが立っていた。すっかり暗くなって遠くに見える街灯と月しか明かりは無かったが、卯依ちゃんの姿ははっきりと見えた。初めて見た時も思ったことだけれど、卯依ちゃんの髪は光でも取り込まれているのだろうか。
「久しぶり、結構片付いてきたね」
いつのまにかすぐ傍まで近付いていた卯依ちゃんが辺りを見渡して言った。半袖短パンのジャージを着ていて、寒くないのだろうかと思って訊ねると「駅からここまで走ってきたからむしろ暑い」と返ってきた。
「卯依ちゃん、合宿終わったの?」
「……オールマイトから聞いたの?」
顔をしかめて言った卯依ちゃんに、数日前のオールマイトのように「しまった」と口を抑える。
卯依ちゃんは僕の言葉をあまり気にしていないようで、腕をぐんっと上に伸ばして言うとあくびをこぼした。
「オールマイトが言ってたんだ。『緑谷少年が心配していたから、顔を見せにいってあげなさい』って」
「そんな……わざわざごめんね」
「なんで謝るの? 私が来たくて来たんだよ」
「……」
「ほら、続き」
卯依ちゃんの明るい声で背を押され、足元のタイヤを持ち上げた。しばらくしてから時計を確認すると終了時間になっていて、額を拭いながら卯依ちゃんを探す。卯依ちゃんは少し離れたところに立って海を見ていた。彼女が履いていた靴がぽつんと寂しく置いてあって、卯依ちゃんは足首まで海に浸かってしまっている。
「卯依ちゃん! 風邪引くよ!」
大きな声でその背中に呼びかけると、長い髪を揺らして卯依ちゃんが振り向く。僕に向かって片腕を大きく振ってから彼女は海に背を向けた。ほっと息を吐いて彼女に走り寄る。
「夜の海ってなんか怖いよね」
「? そう、かな」
卯依ちゃんの視線を辿って海へと顔を向ける。月明かりに海面が照らされて、光の道のようなものが出来ていた。神秘的なその風景を怖いとは思えなかった。僕は綺麗だ、と思う。
それから卯依ちゃんは水道で足を洗い流したけれど、僕はふと拭くものが無いと気付いた。首元にタオルはあるけど汗を拭いたから清潔じゃない。どうしよう、と慌てていると卯依ちゃんが「よっ」と声をあげて宙に飛んだ。
「!」
重力に従って落ちる筈の体は、そのまま浮かび上がった。白い髪も空気をはらんで空中に漂っている。
「えっ!? 卯依ちゃん!」
「誰も見てないから大丈夫」
靴を片手で掴んだまま、卯依ちゃんはすーっと空中を移動して僕の横に並んだ。瞳は金色で、卯依ちゃんの体の輪郭は白い光を放っていた。
「たまに空中散歩をするんだけど、結構楽しいんだよ。受験が終わったら一緒にどう?」
「……いいの?」
「勿論。高所恐怖症じゃなかったらね」
僕より少し高い位置を浮いている卯依ちゃんを見上げて、「凄く楽しみだよ」と伝えた。彼女は柔らかく微笑む。月明かりと、自身から発している光を纏って、僕には少し眩しすぎるくらいだった。