4


出久VS心操の対決は、開始直後に出久が心操の“個性”にかかることから始まった。

―――ていうか、終わった?

初期位置から変わらない地点で棒立ちしている出久に、隣の俊典さんが動揺するのが分かる。あんなに警戒している出久が思わず答えてしまうような言葉ってなんだ……? 出久は「なんてこと、いうんだ」って叫んだのかな。開始の声が大きかったからあまり自信はないが。心操から酷い罵声でも浴びせられたのだろうか。

「ええー……!?」

俊典さんの情けない声が斜め上から降ってくる。心操の指示を聞いた出久はくるりと振り返りこちらへ向かって歩いてきた。「あらら」あからさまにあわあわし出す俊典さんをちらりと見上げる。確か、“個性”を解除するには体への衝撃だっけ。一体一の試合形式でそれは望めないだろう。場外のラインぎりぎりまで出久が来る。……残念だけど、これは案外早く決着が―――。

諦めがちに見ていると、バキという鈍い音が聞こえた。同時にゲートまで届く突風。咄嗟に腕で顔を隠し、収まってから顔を上げると、場外ラインギリギリで出久が立ち止まっているのが見えた。

「緑谷!! とどまったああ!!?」

口元を抑えていない手の指が赤く腫れ上がっている。―――指に “個性”を。でも、心操の“個性”がかかっているときは体の自由が効かないはずじゃ……。

心操が再び“個性”をかけようと動く。けど、出久はそれに答えない。

「恵まれた人間にはわかんないだろ」

答えない。

「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」
「……」

出久が掴みかかり、心操が顔を殴りつける。それに怯まずに場外へと押し出そうとする出久に、心操は体をずらして位置を変えると、出久の顔を掴みそのまま場外へ向けて押した。

「あ」

出久が骨折した手で、自分の顔を掴む腕を鷲掴み、心操の懐に。

背負投げで地面に叩きつけられた心操の足は場外に出ていた。

「心操くん、場外!! 緑谷くん、二回戦進出!!」

決着がつき、熱狂がスタジアムを包む。あの技、たしか、対人戦闘訓練で爆豪にも……。あの時は爆豪の動きを予測していたけど、今回は誘い込んだのか。自分の勝ちの流れに、強引に持っていくために。

ゲートに戻ってきた出久を俊典さんと二人で迎える。試合に勝ったというのに出久の表情は暗い。三人でリカバリーガールが待機している出張保健所へ向かうと途中で上鳴と遭遇した。咄嗟に俊典さんを廊下の角へと押し込む。

「緑谷! やったな一回戦突破!」
「あ、ありがとう、上鳴くん……」

人の気配がして思わず隠してしまったが、別に見られても大丈夫か。上鳴だし。……いや、説明面倒だからいいか。俊典さんのことなんて説明すればいいか分からない。雄英の用務員? そもそもトゥルーフォームで他の生徒に遭遇した時、なんて自己紹介してるんだろう。

「それにしても、実操の姿見えねぇと思ったら緑谷と一緒にいたのな。仲良しかよ」
「えっ!?」
「そうだよ」
「えっ!?」

ほとんど聞いてなかった話に適当に答えて上鳴に向かって一歩踏み出す。さっさと保健所へ行きたい。あとチラチラ見てくる俊典さんの視線が気になる。

「良いのか〜そんな余裕カマしてて。俺は対実操用に、とっておきの必勝法を見つけちまったんだぜ!」
「……へえ」
「聞きたいか?」
「いや、別に」
「う、卯依ちゃん……」

しょんぼりしてる上鳴はとぼとぼと肩を狭めて廊下を歩いて行った。ふう、と息をついて俊典さんを引っ張り出し保健所へと向かう。リカバリーガールの治療を受け、包帯が巻かれた指をじっと見下ろす。まだ一試合目なのに、指二本を骨折とは。

出久は、心操の“個性”が解かれる時に幻覚を見たと話した。八人か九人、朧げな影の中には俊典さんに似たものもあったらしい。それは“個性”に染み付いた面影のようなものだと、俊典さんは言った。出久の強い想いが心操の“個性”に打ち勝ったのだと。

―――もうすぐ次の試合が始まる頃だろうか。控え室空いたかな。

「そろそろ行こう。試合始まっちゃう」
「あ!」

出久は二人にお礼を言ってから私に続いて部屋を出る。早歩きで廊下を進み、客席へ上がる階段の手前で立ち止まる。

「私は控え室行くね。指、お大事に」
「えっ! あ、そうか、もう準備……ごめん、付き合ってもらっちゃって」
「勝手についてきただけだし。特に準備もないから」

私の言葉に出久が目を丸める。「心の準備とかいいの?」と首を傾げるのを見て同じように首を傾げた。

「卯依ちゃん、緊張しないの?」
「しない」
「……プレッシャーとか、色々」
「もう慣れたかなぁ、そういうのは」
「そっか……」

俯いてしまった出久を不思議に思いつつ「それじゃ」と言って控え室へ向かう。「頑張って!」と叫ぶようにかけられた言葉に振り返り、手を振る。

―――上鳴が言っていた必勝法ってなんのことだろう。そんな隙を見せた覚えはないけど……。