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飯田の対戦相手はB組の塩崎という女子生徒だった。確か障害物競走でも上位にゴールしてたな。特徴的な髪が彼女の“個性”だろう。

試合開始の合図直後に、飯田は騎馬戦の終盤に見せた高速移動で塩崎の背後を取るとそのまま場外へと押し出した。開始数秒での決着に会場が盛り上がる。

目の前で反応できないよなあ、あんなの。騎馬戦の時も気付いたら轟の騎馬ごと後ろに居たし……。飯田が次の対戦相手か、どう対応しよう。

お茶子を挟んで奥にいる出久の口からブツブツと呪文のように考察が聞こえる。ノートにものすごい勢いで文字を連ねながら独り言を呟くその姿は近寄りがたいオーラだ。触れないでおこう。

「っし、そろそろ控え室行ってくるね」

お茶子がそう言って立ち上がる。俯いているせいで表情が見えず、全身の筋肉が強ばっているのが傍目でも分かる。……相手、爆豪だっけ。

「卯依ちゃん、どこか行くの?」
「お腹減ったからパン取ってくる」
「そ、そっか……」

通路に出て階段を降りる。途中の踊り場にたどり着いたところで、下の階に居るお茶子の後ろ姿を見つけた。

「お茶子」
「! えっ、卯依ちゃん?」
「……」
「どうしたん?」

ぎこちない笑顔を見せるお茶子をじっと見下ろす。……何を言うか考えずに出てきてしまった。何を言おう、なにか……私がお茶子に言いたいことは……。

「卯依ちゃん?」
「……爆豪ブッ倒して、このあと、私と戦おう」

お茶子は大きな目をもっと丸めて私を見た。心底驚いたような表情から、力が抜けたように眉が下がっていく。口元が一瞬歪んだように見えて、それからいつもの笑顔を見せてくれた。

「おう! 負けないよ!」

控え室へと向かうお茶子を見送り、座席へと戻る。全員控え室へと向かったのか、一列目は出久しか座っていない。その隣に腰掛け、次の試合が始まるのを待つ。

「……」
「……」

そわそわと落ち着かない出久から視線を感じ、顔を横に向ける。目が合うと出久は顔を下へと逸らしてしまった。

「言いたいことがあるなら言いなよ」
「え!? ……っと……その……」
「……」

ステージでは次の試合が始まった。芦戸と青山の対決は、運動神経の良い芦戸が青山のビームを避け続け、“個性”の使用でお腹を痛めてしまった隙をついてアッパーを決めて試合終了。芦戸が二回戦へ進出することとなった。最初の“個性”把握テストの時も思ったけど、芦戸は身体能力が高いな……。

「卯依ちゃんは、……」
「なに」
「……“個性”、なんだけど」
「……」
「……そう、心操くんの!!」
「え?」

予想していなかった名前の登場に驚く。出久は何故か自分の口から出た言葉に吃驚したようにテンパってから続けた。

「騎馬戦の時に卯依ちゃん言ってたよね! 心操くんに声をかけられたあと、妙な感覚がしたって。考えたんだけど、それって心操くんの“個性”をかけられたからじゃないかな……」
「洗脳、かかってないけど」
「そう、それが謎なんだ。衝撃によって解けるのに、僕が君にしたのは腕を掴んだだけ。強い衝撃でも無かった」
「……体の主導権はずっと自分にあったよ。動けないわけじゃない。ただ一瞬だけ頭にもやがかかったみたいになっただけ」

出久は顎に手をやって考え込む。

「卯依ちゃんに、心操くんの“個性”は効かないってこと?」
「さあ、もしかしたらそうかも」
「考えられる理由は、君の“個性”なんだけど……」
「超能力?」
「うん。でも、洗脳が効かないなんてゼファーの情報には無かったし……いや、公表されてないだけか? 一番当てはまるのは“個性”を防ぐバリアなんだけど、あの時の卯依ちゃんはバリアなんて張ってなかったし……そもそも目が赤かったから“個性”自体使ってなかった……それじゃあ、心操くんは“個性”を使ってなかった? でも、彼自身卯依ちゃんが普通に話してることに驚いたようにも見えたし……他の騎馬を組んだ生徒は全員洗脳したんだから、卯依ちゃんだけ使わないなんておかしい……」

(あー、自分の世界入ったな)

背もたれにぐっと体重をかけ、腕を前へと伸ばす。ステージでは常闇と八百万の試合が始まろうとしていた。