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フィールドを埋め尽くす煙が徐々に晴れていく。真っ先に目に入ったのは壁に打ち付けられ、そのまま力無く倒れていく出久の姿だった。轟はフィールド上に残り、砕かれた氷の上に立っている。
会場に歓声が響き渡る。ミッドナイト先生による轟の三回戦進出が告げられ、出久は担架へ乗せられていった。轟は静かにフィールドを降り、通路へと消えていく。

「ステージ崩壊の為、補修の時間を取らせていただきます」

ミッドナイトの言葉を聞き、飯田や麗日が勢いよく立ち上がる。

「デクくん、リカバリーガールのとこだよね。行こう!」
「ああ!」

二人の言葉を聞いて梅雨ちゃんや峰田も立ち上がる。あまり大勢で行っては邪魔になるだろう、とほとんどのクラスメイトは心配そうな表情を見せつつも席に着いたままだ。

「―――卯依ちゃん?」

お茶子に名前を呼ばれ、顔を上げる。いつまでも座っている私に、麗日は「行かんの?」と首を傾げる。眉を下げた表情を見ていられずに視線を落とすと、同じく座ったままの常闇と目があった。

「随分、顔色が悪いが」
「えっ!? ほ、ほんとだ! 卯依ちゃん、大丈夫!?」
「……うん」

ゆっくり立ち上がり階段を昇っていくと、その後ろをお茶子たちがついてくる。飯田が体調を気にかけてくるのを軽く受け流し、数分で出張保健所へと辿りついた。峰田がノック無しに扉を開け、四人が顔を覗かせる。

その後ろをついていき室内へ入ると、ベッドに横たわる出久と一足先に様子を見に来ていた俊典さんの姿があった。突然の登場に驚いたのか血を吐いている。

出久の意識は戻っていたようで、その両腕はギプスによって固定されている。
近くで見ると、酷い怪我だ。

「怖かったぜ緑谷ぁ。あれじゃプロも欲しがんねーよ」
「塩塗り込んでくスタイル、関心しないわ」
「うるさいよホラ! 心配するのは良いがこれから手術さね!」

リカバリーガールの言葉に皆が悲鳴をあげる。押されるように外へ出される中、俊典さんと出久をじっと見ていた私にリカバリーガールが言う。

「なんて顔してんだい、死にゃしないよ」

私は呟くように「そうですね」と返した。難しい表情のリカバリーガールが扉を閉める。飯田達が離れていき、部屋の中から声がはっきりと聞こえた。

「でもな、余計なお世話ってのは、ヒーローの本質でもある」


▲ ▽


保健所を追い出され、まとまって廊下を歩く。

―――デクくん、大丈夫かな。そう考えながら、ちらりと後ろを振り返る。後ろをゆっくりと歩く卯依ちゃんはぼうっとした様子で視線を下に向けている。その顔色は照明の下でも分かる程青くなっている。日の下で見たときよりは良くなっているようにも見えるけれど……。
同じく卯依ちゃんを気にしていた梅雨ちゃんが名前を呼ぶ。

「卯依ちゃん、緑谷ちゃんが心配なのね。でも、大丈夫よ。リカバリーガールがついてるんだもの」
「そ、そうだよ! 手術って聞いて確かに吃驚したし、心配だろうけど……」
「―――えっ?」

私達の言葉に卯依ちゃんは目を丸めて驚いていた。思いがけない反応に首を傾げる私達に、卯依ちゃんは合点がいったように「ああ、」と口を開いた。

「出久のことを心配してるわけじゃない。リカバリーガールと俊―――、がついてるんだし」
「それじゃあ、やっぱり具合悪いんじゃ」
「ううん」
「でも……」

前を歩いていた飯田くんと峰田くんが振り返り、卯依ちゃんの顔を見る。次の試合は卯依ちゃんと飯田くんの対決だ。飯田くんもそれが気になるのか、腕を組んで険しい表情で卯依ちゃんを見下ろしている。

「本当になんともないから」
「だが、」
「……体調の悪そうな対戦相手に気を遣って全力を出せませんでした、なんて、負けた時の言い訳にしないでよね」

卯依ちゃんは珍しく悪い笑みを浮かべて飯田くんを見上げた。飯田くんが「ムッ」と口を結ぶ。

「全部演技かもよ」
「なっ」
「う、卯依ちゃん!」

慌てて名前を呼んだ私に、卯依ちゃんは今日初めて軽やかな笑い声を出して足早に離れていった。数メートル先で振り返ったその表情はいつものように涼しげで、人工的な明かりに照らされた肌は白く映る。

「全力でやろう、飯田!」
「……ああ!」

力強く頷いた飯田くんを見て、卯依ちゃんは満足げに笑って廊下の奥へと走っていった。同じように控え室へ向かった飯田くんを見送り、三人で客席へと戻る。道中の会話は無く、私はさっきまでの卯依ちゃんのように足元を見下ろして歩いていた。
あれは虚勢だと、直感で分かった。
飯田くんに気を遣わせないために言ったんだ。

「……」

―――そういえば、デクくんが言ってた卯依ちゃんの弱点って……なんだったんだろう。

騎馬戦の作戦会議のさなか、一人自分の世界へとのめり込んでいたデクくんが呟いていた言葉。
発動条件、デメリット。
単語ばかりでよく聞き取れなかったけれど、卯依ちゃんの“個性”にも限度があるのだとしたら。
私のように、体調に影響する弱点があるのなら。

後ろを振り返り、卯依ちゃんが消えていった廊下の先を見る。誰もいない通路をじっと見つめていると梅雨ちゃんに呼ばれた。陽光が差す通路へと出て視界が一気に明るくなる。だというのにいつまでも、ほの暗い卯依ちゃんの赤い瞳が消えてくれない。