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通路から卯依ちゃんと飯田くんが現れ、ゆっくりフィールドへ上がる。

「お互いヒーロー家出身のエリート対決だ! 実操卯依 対 飯田天哉!」
「おい……」

プレゼント・マイク先生と相澤先生の声が聞こえ、すぐに試合開始の合図が響き渡る。その直後、飯田くんは走り出す為に身を屈め、卯依ちゃんも同様にその場へしゃがみこんだ。その右手は地面へぴったりと押し付けられている。

飯田くんの姿が視界から消えたのと同時に、卯依ちゃんの周辺に現れた蔓が勢いよく成長して広がっていく。フィールドの中心に飯田くんの姿が現れ、飯田くんは邪魔な蔓を蹴りで断ち切って卯依ちゃんが居る地点を目指していた。卯依ちゃんはその様子を見据え植物操作の“個性”を使用し続けている。蔓は正確な動きで飯田くんへと迫り、その動きを制限していた。

「飯田の機動性に、実操の植物操作は相性が悪いな」
「そうね、あれじゃ卯依ちゃんに近付けないわ」

常闇くんと梅雨ちゃんの会話に頷き、今も蔓との格闘を続けている飯田くんへ視線を向けた。大きなモニターへと映し出されるその表情は険しい。一本の蔓が飯田くんの腕に巻き付く。「あっ」と思わず声を上げたその瞬間、飯田くんは力強く地面を蹴り上げた。
腕を拘束していた蔓がぶつりと切れる。

「と、飛んだァアー!!」

空中に高く飛び上がった飯田くんは真っ直ぐに卯依ちゃんの元へと向かっている。飯田くんに蔓を集中させていた卯依ちゃんの周りに植物はない。卯依ちゃんは、一回戦のときのように身を守るための蔓のドームを作っていなかった。

卯依ちゃんは飯田くんを見上げ、その場から飛び退き数メートル後ろへと下がる。飯田くんは卯依ちゃんが居た地点に着地し、再び視界から消えた。卯依ちゃんの足が地面に着くよりも先に、飯田くんがその眼前へと迫る。

エンジンを吹かした左足を卯依ちゃんの側頭部へ向けるも、卯依ちゃんが着地と同時に体制を低くし攻撃を躱す。空気を蹴った足。飯田くんの体は勢いのまま回転し、しゃがみこんでいた卯依ちゃんの後頭部へと左足が一直線に下ろされる。

ガンッ、という鋭い音が聞こえ、卯依ちゃんの体が勢いよく地面へと叩きつけられた。
思わずヒッと息を呑む。後ろでは「うわっ」「重いの入ったな」と口にする上鳴くんと切島くんの言葉が聞こえた。

ぐしゃりと地面に倒れた卯依ちゃんは起き上がらず、その横に着地した飯田くんがその襟首を掴み、走り出す。このまま場外へと運ぶつもりなのだろう。だらりとぶらさがった卯依ちゃんの腕が地面に擦れる。

「卯依ちゃん……!」

プレゼント・マイク先生が実況で騒いでいる。これで終わってしまうのか、そう口にした直後だった。
二人が居た場所から周囲に亀裂が走り、一瞬でフィールド上が砕ける。驚きで動きが鈍くなる飯田くん。足元が隆起し、姿を見せたのは太い樹木だった。

飯田くんの行く手を阻むように樹木が地面から伸びる。フィールドを囲う線は地面の亀裂によって歪に曲がっていたが、その隙間からも勢いよく樹木が飛び出し二人を囲った。
地面を広がっていく根。檻のように伸びていく樹木。
フィールドは瞬く間に樹木の茶色に埋め尽くされ、波打つように周囲を覆う樹木を前に、飯田くんは身動きを取れなくなっていった。駆け出すために踏ん張ろうとした瞬間、足場が波のように揺らぎ、飯田くんが体制を崩す。その隙を待っていたように二人の間にも勢いよく樹木が生え、掴んでいた手が離れた。卯依ちゃんは波打つ樹木に運ばれるように移動し、距離を取って振り返る。

樹木の上でふらつく飯田くんを視界に入れ、卯依ちゃんが再びしゃがみ地面に手を着く。序盤の蔓のように、樹木が飯田くんへと迫る。不安定な足場の中で、飯田くんが迫った蔓を蹴ろうとするも、勢いのつかない攻撃は通じず、樹木がその足を拘束した。一本、二本と四肢を固定された飯田くんの体はみるみる樹木によって姿を覆われていく。蛇のようにぐるりと首元を回った樹木の尖った先端が眉間へと向けられ、飯田くんは悔しげに表情を歪めた。

飯田くんが何かを呟き、それを聞いていたミッドナイト先生が腕を振り上げる。

「飯田くんの降参! 実操さんの勝利!」

客席が歓声に包まれる。飯田くんはぐっと歯を食いしばる表情を見せて項垂れた。卯依ちゃんは立ち上がり、動こうとしない。

「―――?」

ミッドナイト先生がゆっくりと卯依ちゃんに近付き、その肩に手を乗せる。モニターに映し出された卯依ちゃんはハッとした表情を見せて飯田を拘束していた樹木へと手を添える。みるみるうちに枯れていきその塵が風に舞う。解放された飯田くんは卯依ちゃんに言葉をかけ、握手を交わしていた。二人の姿に再び観客が盛り上がる。卯依ちゃんは終始ぼうっとした様子で、飯田くんに蹴られた箇所を抑えていた。