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体育祭決勝トーナメント、最終試合。
これまで見てきた爆豪の“個性”や動きは覚えている。動きが一般人のそれじゃなくて、私と同じように政府の訓練を受けているのかとさえ思ったぐらいだ。

“個性”把握テスト、戦闘訓練、USJ襲撃事件、“個性”を使う授業。
これまで何度も爆豪の戦う姿は見ていた。
その度に何度も、心を揺さぶられていた。

爆豪の“個性”は私の古傷を容赦なくえぐる。
その度に思い知らされた。

私は十年前のあの日から、全く成長できていない。

私があの事件と向き合えていないことを、容赦なく突きつけてくる。
ぬるま湯に浸かっている私に冷水をぶっかけるようにして、絶望が顔を出す。

私は、心が弱い。昔からそうだった。
その弱さにつけこまれた。

必死で落ち着かせた心臓は、開始直後の爆破によって再び慌ただしくなった。熱い風も、黒い煙も、頬を撫でつける不快な土埃もなにもかも、私の神経を逆撫でしていた。強く吹き付ける爆風が、強引に私を過去へと引き戻す。
人生が一変したあの日の朝に。

頭と体が切り離されたように、私の体は爆豪の動きに対応して動いていた。攻撃を避け、“個性”を使用して遠ざけ、追撃し、攻め立て、空中を飛び回り。頭上に迫る爆豪の姿に一瞬だけ別の人の姿が重なって、息を止めた。
私は右手を掲げてエネルギーを周囲に集わせる。それが形を成した直後に、眼前で大爆発が起きた。

耳を貫く轟音。
バリアの奥で広がる黒煙に視界が揺れる。
―――あの時も、バリアの内側から同じ光景を見ていた。

煙が晴れてから地面に降り立つ。
足がぴったりと地につくことに安心して、再び迫ってくる爆豪を押し返そうと植物を創造し、成長させていく。

押し出して場外へ持ち込むことはできない相手だ。植物での押し出しも、かなりの隙がなければ不可能。爆豪が自分に迫る植物を丁寧に爆破していくのを遠目で認め、考える。空を飛んで回避が可能な爆豪なら、植物を避けて上を飛んでくると思ったのに、どうしてわざわざ爆破するのか。

ふと、周囲のエネルギーが僅かに減少していることに気付いた。
先ほどよりも周囲が暗くなっている。

―――晴れって予報だったのに。

いつの間にか空には分厚い雲が広範囲に広がり、太陽を覆い隠していた。それに気付いたとき、点と点が繋がるようにしてある仮説が頭に浮かぶ。確認するために植物操作を停止させると、その直後、爆豪は植物を爆破して飛んできた。

準備していた衝撃波によって少し離れた地点に降り立つのを確認する。

―――“個性”の発動条件に気付いている?
ああも木っ端微塵の炭にされてしまえば、植物からエネルギーを吸収することはできない。それが狙いだったのだろうか。

どうして気付かれたんだろう。出久も分かっていなさそうだったのに。USJで“個性”が使えなくなったのを見られたからだろうか。

「オイ……」
「?」

深く俯いた爆豪が口を開く。攻撃してくる様子は無かったので黙っていると、爆豪は震える声を搾り出すようにして言った。

「俺じゃ、力不足かよ」

何を言っているのか理解出来ずに顔をしかめると、爆豪は顔を上げた。人を殺せそうな眼光が向けられる。

「半分野郎もテメェも、俺は視界にすら入ってねぇってのか」

(半分野郎?)と首を傾げそうになったとき、爆豪の口から浴びせられた発言に硬直する。

「自惚れんな。舐めプのクソカスが、ゼファーの代わりになんてなれるわけねェだろ」

指がぴくりと跳ねる。

―――私は確かにゼファーの子供だし、彼と同じ“個性”も使える。
だけど、ゼファーじゃないし、彼の代わりでもない。


ゼファーのことをこれ以上聞かれたくなくて、いつか言った、私の言葉。
自分のことを“ゼファーの子供”だなんて、本当は口にしたくもなかった。
一度も父親らしいことをされた覚えはない。
そもそも親子としての認識すらなかった。

私達を繋げているのは血だけ。この体に残された“個性”だけ。そんなものを、親子の繋がりと呼べるのだろうか。

私に父親なんていない。いたこともない。

それなのに、みんな私をゼファーの子供だと言う。
努力も成果も、全てゼファーの血のお陰なのだと当然のように受け止められて。
何年も続けば慣れたよ。思うところがないわけじゃない。でも、受け入れた。

これは仕方のないことだと。
生まれは変えられないのだと。

“個性”だって、受け継いだのなら受け入れるしかない。

―――なのに、

私がゼファーの代替品になることを望んでおいて、
私にゼファーの面影を重ねて感傷に浸っておいて、

私はゼファーの代わりになれないだなんて、どの口が言うんだろう。

勝手に私たちを重ねて見ているのは、あんた達の方なのに。

水中に深く沈んでいるような感覚だ。
周囲の音がぼんやりと朧げに聞こえて、体が重くて、息苦しくて仕方がない。
胸がざわつく。
声が聞こえる。
頭が割れるように痛い。

―――寒い。

「どこまで人を虚仮にすりゃぁ気が済むんだテメェは!!」

無意識に、
無自覚に、
無遠慮に、

あんたたちは、どこまで私を、


▲ ▽


モニターに映し出される卯依ちゃんの表情は冷たく、宝石のような金の瞳だけが痛いぐらいの輝きを放っている。

怒りをぶつけるようにかっちゃんが爆破で接近し、二人の距離が一瞬で縮まる。卯依ちゃんはぴくりとも動かず、次の攻撃に僕が身構えた直後だった。

卯依ちゃんの周囲に、一瞬だけ赤く光る何かが現れる。

それに注視するより先に、卯依ちゃんを中心に真っ赤な炎が燃え盛った。足元から爆発的に拡散した炎は、目の前まで迫っていたかっちゃんに襲いかかる。爆破で威力を殺したものの炎を浴びたのだろう。後退したかっちゃんの服は少しだけ焦げ付き、その両手は赤くなっていた。

陽光が遮られている暗い影の下。
赤と金色に染まる炎によって、卯依ちゃんの顔が照らされる。

「―――」

自分が息を呑む音が、やけに大きく聞こえた。