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美しいまでの輝きの中、卯依ちゃんはどこか無気力な表情をしていた。陰のかかった金色の瞳を僅かに伏せて、立ち尽くしていた。
脱力したようにぶら下がった腕に、地面から伸びる炎が絡む。
その裾に火が燃え移るのを見た。
卯依ちゃんが左手を掲げる。手の平に青い白い光が収束していき、重低音と共に放たれたエネルギー弾は周囲の炎を巻き込んでかっちゃんへと向かっていった。かっちゃんが寸前で躱すと、エネルギー弾は壁に衝突し霧散する。卯依ちゃんは間髪いれずに炎を伴うエネルギー弾を放ち続けていた。爆風によって卯依ちゃんの周囲に燃え盛る炎が大きく揺れ、その熱風を客席まで届ける。
試合開始から時間が経過したことと、炎による気温の上昇でかっちゃんの動きが早くなる。……卯依ちゃんは、かっちゃんの“個性”の詳細を知らないんだっけ。サイコキネシスや植物操作は良い。でも、炎はダメだ。
これじゃあ、かっちゃんの有利に―――
視線の先で卯依ちゃんの体がふらっと揺れる。炎に巻かれた左腕はここからでも分かる程赤く、色を変えていた。USJ襲撃事件の時に見たときのように……。
自身が発生させた炎によって、卯依ちゃんは負傷していた。
「……卯依ちゃんは自分の“個性”に耐性がないのか」
「“個性”に耐性がないって、どういうこと?」
ステージに立つ卯依ちゃんを見たまま、麗日さんの質問に答える。
特別な事情がない限り、“個性”を持つ人間は、その“個性”に合った体質を持っている。
轟くんがほかの人より熱や零度に耐えられるように。
かっちゃんの手の平が“個性”の爆破に耐えられるように。
「卯依ちゃんの“個性”は超能力。その応用で炎を生み出しているだけであって、卯依ちゃんの体が特別、熱に強いわけじゃないんだ。だから、自分で発生させた炎で、ダメージを負ってしまう」
「うぇっ、なんだそれ。超能力ってなんでも出来るわけじゃねぇんだな」
上鳴くんが顔を青くして卯依ちゃんを見下ろす。
常闇くんが訝しげに呟いた。
「実操は何故、そんな技を……」
「……それは、」
火傷のダメージが重なった左腕を見下ろしてから、卯依ちゃんは腕を下ろした。もう動かせないと判断したのかもしれない。無事だった右腕を掲げる。炎によって威力が段違いになったエネルギー弾、衝撃波の応酬に、かっちゃんは以前のように距離を縮めることさえ出来なくなっている。周囲の熱によって、普段より爆破の威力が増し、動きも良くなっているのに。同じように、卯依ちゃんの技の威力も上がっているのだ。
「……火力で押し切れるって、思ったのかもしれない」
卯依ちゃんの背後に炎を巻き上げた竜巻が作り上げられていく。瓦礫や木片を巻き込み、炎を内包し、それは高く広がっていく。
小さな嵐。その余波がこちらまで届いた。
足元にいる卯依ちゃんだって例外ではなく、制御のつかない炎の端が卯依ちゃんの顔に重なる。僅かに頭を揺らしただけで、卯依ちゃんは構わずに“個性”を使用し続けている。
火力を増した炎の嵐が、薄い青へと僅かに色を変えた直後、卯依ちゃんが腕を振り下ろした。かっちゃんは爆破によって体を回転させ、急加速しながらその嵐に向かっていく。モニターに一瞬だけ映し出された表情は不敵に笑っていた。
青い竜巻と榴弾が衝突する。
その瞬間、耳を劈く爆発音が破裂したように聞こえた。
爆風がスタジアムに吹き荒れ、思わず腕で顔を覆う。
「オイオイ、実操は火力で言えばゼファー超えてるんじゃないか!? 爆豪は麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えたまさに人間榴弾!! 果たして……」
全員が固唾を呑んで、ステージを見る。
煙が風によって運ばれ、二人の姿が顕になる。
ステージの中央で、二人はお互いに膝をついていた。
最初に立ち上がったのはかっちゃんで、両腕どころか上半身が火傷によって赤く染まっている。焼け落ちた体操服。所々焼けた体。血の滲んだ頬を歪め、卯依ちゃんを睨んでいる。あの火力を受けてすぐに立ち上がれるのが、さすがかっちゃんて感じだ。
卯依ちゃんがゆっくりと、ふらつきながら立ち上がる。衝撃で解けたのか、白い髪が肩に落ちていた。持ち上げられた顔がモニターに映し出され、悲鳴をあげそうになったのを手で押さえる。代わりに客席のあちこちから悲鳴があがった。
卯依ちゃんは右目を中心に、顔の半分に火傷を負っていた。滴る血が顎を伝い流れ落ちる。だというのに、卯依ちゃんは痛みに顔を歪めることもなく無表情のままだった。
髪の隙間から見える表情が、本当に人形のようで、背筋が震える。
まるで、痛覚がないみたいだ。
意識が、ここに無いみたいだ。
「ヒィ、実操……ウチもう見てらんない……」
「爆豪、やっぱそっち系の……」
耳郎さんの悲痛な声。
峰田くんの呟きがしんとした客席に響く。
「せ、先生、止めないのかな」
今にも倒れそうな顔色をした麗日さんが呟く。ステージ脇に立つミッドナイト先生も、セメントス先生も動く様子はない。ただまっすぐに二人を見守っている。
ぽつ、と頬に冷たいものが当たった。
「―――雨だ」
一度、二度、と徐々に間隔を狭めて雫が落ちてくる。
ものの数秒で本降りになった雨によって、空気中に待っていた土煙が沈んだ。
炎によって熱を持っていた体が強制的に冷やされる。
そして、ステージ上で動きがあった。
卯依ちゃんの体が大きく揺れる。
血塗れの右手で顔を抑えている様子がモニターに映し出される。白い髪と細い指の間で、赤い瞳が揺れていた。
「……卯依ちゃん……?」
麗日さんの声が静かに落ちる。