まぶたを閉じて綺羅を恋う夜
アラジンが笛からウーゴを出してひと騒動起こしている最中、ハルはそこから少し離れた川のほとりに居た。ハルの着ている鎧兜は、魔法である程度補強されてはいるものの、肉食植物の消化液を付着させたままでは良くないと判断したからだった。
全身の鎧を脱いで一つずつ丁寧に拭っていく。天気も良いのですぐに乾くだろうと判断して、鎧を地面に並べた。水を呑んでいる愛馬をぼうっと眺めていたハルは、人の気配が迫ったことで腰の剣に手を添える。
「おい、そろそろ出発―――」
木々を通って現れたのは運転手の姿だった。ハルは剣から手を離し、これでもかと見開かれた瞳を見返す。
「先に行ってください」
「……お、お」
「?」
「女ぁ!?」
アリババの叫びに驚いた鳥が数羽慌ただしく飛び去っていく。ハルは少しだけ不快そうに顔を曇らせてから肯定した。見たとおりです、と。アリババは頭のてっぺんから足の先まで何度も目を往復させる。
金糸を編んだような艶のある髪と、鮮やかな青磁色の瞳。整った顔立ちと柔らかそうな体つきに、アリババは人違いじゃないかと錯覚した。けれど足元に並べられた見覚えのある鋼鉄の鎧兜が、この女の正体が先ほど剣を振り回していた騎士だと証明している。
アリババはしばらく言葉を失って立ち尽くしていたが、ハルの言葉を素直に受け取って背中を向けた。ただでさえ金属器のジンを持つ人間を見つけたばかりで動揺と興奮が収まっていないというのに。あんな細腕で、男達をなぎ倒し、落ちかけた荷車を引っ張り上げたというのか。
荷車に戻って「ハルおにいさんは?」と聞いてきたアラジンに、アリババは形容し難い表情を見せた。おにいさんじゃねえ。あれはおねえさんだ。アリババは「後で合流するらしいぜ」と告げてからラクダを走らせた。
―――いっそ性別はなんでもいい。迷宮に挑戦するのなら戦力がいる。アイツが力を貸してくれるなら百人力だ。それにとんでもない美人だし、迷宮攻略をきっかけに距離を縮めてあんなことやこんなこと―――。グフッ
「おにいさん、どうしたの? 変な顔だよ?」
「……」
アラジンの悪意の無い鋭い言葉の剣がぐさりと突き刺さる。アリババは「なんでもねえよ」と吐き捨てると、気を取り直して手綱を強く引くのだった。