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砂漠ヒヤシンスの触手によって消化液に沈められていたハルは、手を離してしまったせいで一緒に沈んだ少女へと手を伸ばす。その背に触れて服を掴むと、自身の体を持ち上げて少女を消化液の外へ出すために懸命に腕を伸ばした。

少女の上半身がかろうじて消化液の外に出る。それを確認してからハルは剣を強く握り、瞳を閉じた。迷っている場合ではない。そう決意したハルの伸びた腕を、引っ張り上げる手があった。

持ち上げられた体と、隙間から流れ込んだ酸素に目を瞬く。ハルの眼前には馬車の運転手が居た。自分達を助けに来たのだと認識するよりも前に、運転手はハルの腕を引いて走り出す。気づけば砂漠ヒヤシンスの花弁は一部だけ開いていた。

力の抜けている少女を抱えて外へと出たハルは、足元に紫色の液体と散らばった木片を見つける。―――これは荷車に乗っていたブドウ酒か。この植物は酒が弱点なのか。運転手の後をついて坂を駆け上がりながら考えていたハルは、子供を母親の元へと返してから礼を言うために振り返った。
そしてその背に迫った触手に気付き、手を伸ばす。

「アリババ! まだだ!」

同僚の声も間に合わず、触手によって連れて行かれたアリババを見て、ハルは再び穴の中へと戻り触手を切り伏せていった。

その後ろではアラジンが頭に巻いていたターバンを広げていく。

頭部を殴られたアリババの意識が朦朧として、下を見る。そこには剣を手に触手を次々切り倒していくハルの姿があった。

―――アイツ、せっかく助かったのに。また来たのか。どうしようもないお人好しだな。

きっと、なにか大事を為せるのはああいうやつだ。見返りを求めずに誰かの為に戦えるような―――

―――ああ、結局なにも成せないまま、ネズミの価値のまま死ぬのかな。

「あきらめないでよ、おにいさん!」

アリババが諦めかけた時、上空から声が聞こえた。ハルも剣を止めて上を見上げる。ブドウ酒を大量に乗せたターバンの上に、アラジンが立っていた。目を輝かせて、素晴らしいものを見た子供のように。

風に青い髪を靡かせてアラジンは言う。

「お金でもお酒でも買えないもの、もっと僕に教えてよ!」

ブーデルの叫びも耳に届かないアラジンは、手を高くあげてから振り下ろす。重力に従って落ちてきたブドウ酒を呆然と見ていたハルは、拘束が緩くなった隙を見てアリババを救い担ぎ上げると穴から脱出した。泡を吹いて倒れているブーデルを一瞥したものの、ハルが手を貸すことはなかった。