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その日、半年振りの大船団一行がシンドリアの領海を越えた。その気配に、シンドリアの森で特訓をしていた二人のファナリスが動きを止める。顔を見合わせると、二人は王宮へと足を進めるのだった。

シンドリア国王、シンドバッドの帰還。
一報を聞いたハルが構えていた剣を下ろす。同じように対峙していた国軍兵士は頭を下げてから鍛練場を出て行った。慌ただしく人が去っていく中、ハルは落ち着いた様子で他の食客と共に片付けを済ませ、静かに銀蠍塔を出て行った。

シンドバッドがジャーファルに会談の内容を伝え、王宮の中を進む。長旅の疲れよりもまず、バルバッドのことを伝えたい相手がいた。
バルバッドの王子、アリババ・サルージャ。
そしてマギのアラジン。
追われる形でバルバッドを去って以来、シンドバッドが国を発つまで二人は塞ぎ込んでいた。ジャーファルに二人の様子を訪ねると、近頃は元気を取り戻したという返答があり、シンドバッドは胸を撫で下ろす。そのままもう一つの懸念を口にした。

「ハルの様子は?」
「シンの許可を得てからは銀蠍塔で兵士と剣の特訓をしていますよ。怪我も完治したようです」

ジャーファルの言葉にシンドバッドが軽やかな笑声を飛ばした。安静期間を終えた頃、ジャーファルからの手紙で「遠慮したハルが自室で素振りをしている」と報告を受け、シンドバッドはすぐに銀蠍塔への出入りを許可する手紙を出したのだ。正直、その提案にも遠慮して部屋に閉じ篭っているのではないかという不安があったが。

「それは良かった」

シンドバッドは半年前の戦いを思い出す。たくさんの血が流れ、犠牲を出し、それでも戦い続けた少年たちの姿を。

「あの時、彼らが戦ったからこそ、バルバッド国民の心に希望が宿った。傷付き、背負い、最愛の友人を失ってなお、人々を勇気付けた」

その光景にシンドバッドは圧倒された。きっとこの先も、あの光景を忘れることはないだろう。

「シンドバッドさん!」

背後から聞き覚えのある少年の声が聞こえた。今まさに考えていた、国を救った勇敢な少年。一番会いたい人物でもあった。
振り返った先にはこちらに元気よく駆けてくる姿があり、自然と笑顔を浮かべていたシンドバッドだったが、その顔は不自然に固まった。視線の先に立つのは四ヶ月振りに顔を合わせる少年。金色の髪とオレンジの瞳。そしてふっくりと肉付きの良くなった顔周りや腹部。

「アリババくん……君……

―――太った?」

シンドバッドの言葉にアリババは照れくさそうにふくよかな腹を抑えた。シンドリアの食事が美味しくてと口にするアリババに、ジャーファルは終始嬉しそうに微笑んでいる。初めは食事が喉を通らなかった、けれどハルの言葉を聞いて、カシムの為にも立ち直らなければならないと考えるようになった。アリババは顔をあげ、芯のある眼差しをシンドバッドへと向ける。

「俺にできることがあれば、どうか教えてください。バルバッドのような戦乱をもう起こさせないためにも、世界の異変と戦う覚悟はできています!」
「……そうか!」

隣に立つアリババの膨れた体がシンドバッドにぶつかるたび、その弾力に揺さぶられる。アリババが健気なことを言ってくれているというのに、何故だか心に響かない。そう考えてしまった自分を戒めるように首を激しく振る。たかが体重が増えた程度、なんだというのか。アリババは国を失い、友人を失った。その悲しみが食事で癒えたのならそれでいいじゃないか。

そう自分に言い聞かせて目的地に辿りついたシンドバッドの視界を、高く積み上げられた皿の山が埋め尽くす。その中心には侍女達の手で食事を与えられる(ふくよかなんて言葉で片付けられない程)太った少年。見る影もなく変わり果てたアラジンの姿があった。

むちむちに膨らんだ短い腕を高く上げ(肩の肉で全然上がっていないが)、シンドバッドの名を呼ぶアラジン。おかえりなさい、という言葉にシンドバッドは言葉を失い。表情の失せた顔のまま「ただいま」と力無く言うのだった。

「ご帰還、お待ちしておりました。シンドバッド王」

背後からかけられた言葉にシンドバッドの肩が跳ねる。(まさか、この流れは……)と恐れながらシンドバッドが振り返ると、そこには初めて会った時と同じように鋼鉄の鎧で全身を覆うハルの姿が。

僅かに震えながら「その鎧の中にパンパンの脂肪が詰め込まれてたりしないよな?」と問いただすシンドバッドに、ハルは首を傾げるばかりであった。