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シンドバッドから痩せるよう言い渡されたアリババとアラジンは、日夜走り続けた。
怠惰で太った体を絞るために、毎日汗を流し続けた。
「食事をするよう強く勧めたのは私ですから」
責任を感じたハルがそう言って二人に手を貸したが、縄で胴体を繋がれ、先導するハルに引っ張られながら何時間も走り続けるというあまりにも過酷な減量は長続きしなかった。開始数分はともかく、体力の低下によって失速した二人は引っ張られる縄の強さによって転び、ハルは二人を錘にして駆け続ける。
もはや誰のための運動なのか分からなくなっていた。
そんなことが二日程続き、赤く腫れた体を抑えてアリババが叫ぶ。「落ちるっつーか削げる!」その傍らでアラジンは一言も発さずに地面の上に伸びていた。全身鎧を纏った騎士が、もがく二人を引き摺って王宮を延々と駆け続ける様はまるで刑罰のようだったと後にシンドバッドは語る。
シンドバッド直々にやりすぎだと言われたハルは、運動ではなく食事面での協力に移行した。モルジアナと共に、アリババ、アラジンの正面に座り、じっと二人の食事の様子を凝視する。二人の眼差し。その威圧感によって食欲を減らす、という作戦だった。周囲の協力もあり、運動と食事制限を続け数週間が経つと、アリババの体型は以前のものへと戻っていた。
アリババが痩せたと聞いて執務室を出たシンドバッドは、顔周りが少しだけスッキリしただけのアラジンを見て疲れたように額を抑える。ウーゴが消え、お腹の力を使う機会が減ったことで、体重が変わらないのかもしれない。昔を懐かしむように話すアラジンに、モルジアナとジャーファルが気遣うようにそばへ寄る。励ますように美味しい物でも食べるかと聞くジャーファルに、シンドバッドは「甘やかすな!」と苦言を呈した。
「二人共、そんな調子では困る!!」
机を叩いたシンドバッドに、アリババが背を丸める。アリババらは「食客」としてシンドリアに滞在している。当然、シンドバッドは、アリババらがシンドリアの為に力を尽くすことを期待していた。他の食客と同じように、力を貸してほしい。そう口にしたシンドバッドに、アリババが疑問を返す。
「力を貸すって……?」
「……とある相手との戦いにだ」
真剣な表情で返したシンドバッドに、アリババが背筋を伸ばす。場所を変え、緑射塔の一室で詳しい説明を聞くことになり、アリババ、アラジンはシンドバッドの正面に座り、その後ろにハルが立ち控えた。
シンドリア建国以前から、シンドバッドはある組織と深く因縁があり、何度も戦い続けている。バルバッドでも話した「世界の異変」。戦争、貧困、差別。それらが世界中に拡大しているのは偶然ではなく、組織の作為によるものだった。貿易商、政治顧問、官女。姿形を変え諸国の中枢に潜り込み、影から歴史を操ろうとしている。
「アル・サーメン。奴らは決して一つの名を名乗らんが、俺たちは奴らの組織をそう呼んでいる」
「アル・サーメン……」
アラジンがシンドバッドの言葉を繰り返す。
「最早君たちにも無関係ではなくなってしまったから話すのだ。先のバルバッドの一件で、奴らは君たちに目を向けたからな!」
アリババが息を呑み、目を見開く。
バルバッドで「銀行屋」を名乗り、経済的混乱に追い込んだ男。そしてジュダルや黒い「ジン」、煌帝国の背後にあるものこそ―――。
「あるいは、俺も気付かなかった他の姿を借りて、バルバッドを内乱に追い込んだ。奴らは今、世界中で同じようなことをしているんだ」
固く握られたアリババの拳が震えていた。ハルの頭に思い浮かぶのは、霧の団に魔法道具を斡旋していたという謎の人物。武器商人によって与えられた魔法道具で、頭領であったカシムが迎えた末路を思い出す。
「……アリババくん」
眉を下げ、悲哀の表情を浮かべたアラジンが静かに名を呼ぶ。アリババは感情を曝け出すでもなく、押し殺すように声を振り絞った。
「なんでもありません。話を続けてください」
俯き、歯を食いしばるその様子に、シンドバッドはしばらく沈黙を続けてから言った。自分も、アル・サーメンを許せない、と。
だからこそ、強大な敵に対抗するために少しでも多くの力を必要としているのだと。
「これ以上詳しくは話せない。それは、組織との戦いに君たちを完璧に巻き込むということだ。それに……アリババくん、アラジン、君たち二人はまだ力不足だ。今組織と戦っても返り討ちだろう。力を付けるのが先決だよ」
穏やかな表情で、淡々と告げたシンドバッドに、アリババは狼狽える。数日で会得した武器化魔装だけでは、到底太刀打ち出来る相手ではないのだ。
アリババの魔装も、アラジンの魔法も未完成。
自分が力不足であることは二人も自覚していた。どうすれば今よりも魔法を使えるようになるか。そう相談するアラジンに、シンドバッドは腰を上げた。魔法のことは、魔法を使えるものに教わるのがいい。
緑射塔の広場を見渡し、シンドバッドは叫ぶ。
食客としてシンドリアに滞在する、魔法使いの名を。