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アリババ、モルジアナと共に王宮を出て港へ向かうと、そこには三人が見たこともない大きさの生き物がシンドリアの果樹園を荒らしていた。アバレウツボと呼ばれる細長い身体と大きな口を持つ生き物は、鋭い歯をむき出しに唸りアリババとモルジアナの恐怖心を煽る。

なんとかして島の人間を逃がそうとするアリババだったが、周囲に集まった人間の表情は明るく、上気した頬からは興奮した様子が見て取れる。瞳を輝かせて騒ぎ立つシンドリアの住人に、モルジアナは戸惑った。何故嬉しそうなのか、恐ろしくはないのか。

遅れてやってきたアラジンは、ヤムライハが「狩り」のために召集されたことを三人に伝える。それから間もなく銅鑼を打ち鳴らす音が島中に響き渡った。

「来たぞ! 我らが王と、八人将たちが!!」

王宮へと続く道に、シンドリアの国軍を連れたシンドバッドが立っていた。その傍らにはハルたちと面識のあるジャーファルやマスルール。そしてヤムライハ。他の五名は初めて見る人物であり、アラジンらが目を瞬かせている中、ハルの視線は剣を持つ青年へと向けられていた。

浅黒い肌と光輝を放つ銀髪。
身を包む黄金の装飾品。

「今日の獲物はお前の剣で仕留めろ、シャルルカン!!」
「仰せのままに、王よ!」

剣の青年が高台から飛び降り、アバレウツボの頭上に迫る。飛び込んできた獲物に口を大きく開けて叫んだ化け物に怯むこともなく、シャルルカンは眷属器に魔力を込める。

眷属器、「流閃剣フォラーズ・サイカ

シャルルカンが身を翻して剣を振るうと、いとも容易くアバレウツボの頭は胴と切り離された。攻撃はそれで終わらず、シャルルカンは細い剣を自在に操り、アバレウツボの身体を切り刻んでいく。

「腹開き! 内蔵、背骨、腹骨!」

瞬きの間に剣が入り、空中でアバレウツボは捌かれていく。
それは国民が地面に広げていた布の上に落ちていった。ただ無造作に置かれるわけではなく、それはまるで料理人が美しく並べ飾ったようだ。

「解体完了!」

満面の笑みで国民に向き直ったシャルルカンは、みんなで仲良く分けてくれと口にして大腕を振るっていた。

「す……すっごく器用なんですね!」
「目立ちたがりなだけよ、アレは」

驚くアリババの横でヤムライハは呆れたように肩の力を抜いた。そのとなりでモルジアナは空腹から口の端に涎を垂らしている。

「ハル、おまえできる?」と聞くアリババの疑問にハルは考え込み、「お前の剣は雑すぎる」と怒っていた師の言葉を思い出して首を振るのだった。

改めてアリババの師として紹介されたシャルルカンは、気さくで親しみやすい笑顔を浮かべアリババを見ていた。

「どうしても剣術が上手くなりたくて指南役を探してたんだって?」
「ハイ……」
「そうか、そんなに剣術が好きか。剣の良さがわかるなんてなかなか見所があるじゃないか」

剣を使い、師を探しているというアリババをすぐに気に入ったシャルルカンだったが、肩を組んで談笑する様子を見ていたヤムライハが一石を投じた。

「アリババくん、そいつと喋ると剣術バカがうつるわよ」

冷たく言い放たれた言葉にシャルルカンの身体がぴくりと反応する。聞き捨てならないと言わんばかりに剣の鞘に手を伸ばしたシャルルカンに、近くで見ていたハルがぎょっと鎧の下で目を剥いた。

「魔法使いってのはこれだから困るぜ……魔法しかできねえ貧弱でエラそうな奴には、剣と己の腕で高みへ昇る美しさがわからねえ。―――剣こそが最強だ!」
「―――魔法こそが最強よ! 鉄の板キレ振り回して自分に酔えちゃう人種にはわからないでしょうがね……あんたの眷属器の能力だって原理的には魔法なんだからね!」

威嚇する猫のように戦闘態勢を取った二人を見て心配したハルがちらりとシンドバッドを伺ったが、慌てるまでもなく見守っていたので(よくあるじゃれあいなのだろう)と判断した。ちなみにアリババは引いていた。

杖や剣を使わずに取っ組み合いになって争っていた二人だったが、性別や体格の差からか、ヤムライハの体が押し合いに負け後ろへ傾く。言い合いしていたことも忘れて咄嗟に手を伸ばしていたシャルルカンだったが、それより先にヤムライハの背を支える鎧の手があった。

「あっ……」

自分を助けた人物を見上げて、ヤムライハは声をもらす。
少しも肌を見せない鉄壁の鎧。真っ赤な外套が風に揺れている。
自分はまた、助けられたのだ。

「お怪我は?」
「平気よ、あの……」
「良かった。不躾に触れてしまい、申し訳ありません」

ハルはヤムライハの体制をそっと正すと、その背からすぐに手を離した。さっきまで体格で優っていた男に噛み付いていた女性と同一人物とは思えないほど大人しくなり、借りてきた猫のようになってしまったヤムライハの姿を見て、伸ばしかけた手をそのままにシャルルカンは硬直する。
似た光景を何度も見たことがあったからだ。

「……」
「?」

かあああ、っと頬を赤くして帽子を目深に被るヤムライハ。突然静かになったヤムライハを不思議そうに見下ろすハル。信じられないと言わんばかりに顔を驚愕に染め、そんな二人を見比べるシャルルカン。

―――そして全てを察知し、面白いことが始まったと目を輝かせる八人将の一人、ピスティ。

シャルルカンがハルに噛み付くよりも先に、シンドバッドが言った。

「今夜は宴だ。みんな、修行は明日からにしなさい」