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喧騒から逃げるようにアリババとアラジンは港に来ていた。食べ過ぎて苦しい腹を抑え、二人は砂浜に腰を落ち着かせる。めでたい謝肉宴の席であっても、どうしても話しておきたいことがあった。

「アラジンは、アル・サーメンをどう思う?」

アリババは彼らを許せないと口にした。その理由は単に、友人のカシムが死んだからではない。カシムが自分をクズだとずっと思っていたこと、そう思い込むように仕向けた「アル・サーメン」という組織と、それを最期の直前まで止められなかった自分のことが許せなかった。

「どんな違いあっても、生まれながらにクズなんてそんな人間いるもんか」

世界中にそう思わせようとしている人間がいるのなら、絶対に止める。


アリババは以前ハルに言われた言葉を、何度も何度も思い返していた。バルバッドよりもずっと前から自分の隣に立って戦ってくれた友人の言葉を。

―――もう一度、考えてほしいんです。
これから自分が何を成すべきなのか。なんのために、戦うのか。

(なんのために、戦うのか)

「俺はこれからそういうことのために、戦いたいんだ」

立ち上がったアリババは、多くの悲しみや損失を抱えた人間の表情をしていた。悲痛、後悔、決意。多くのものを綯交ぜにした感情を内に秘めたアリババの決意に、アラジンは頷く。

「僕も、君と一緒にアル・サーメンと戦うよ。正しい王を導いて、彼らと共に世界の闇を晴らす。アル・サーメンに変えられたマギや、その王の闇も晴らす。

―――そのために、僕たち・・は生まれてきたんだ」

最後の発言にアリババが首を傾げる。その様子を見たアラジンは、まだ詳しくは話せないんだけどねと曖昧に笑った。

「頼もしいことに、僕らと同じ志でもう戦ってる王様もいるよね!」

アラジンの言葉で思い浮かべるのはシンドバッドの姿だった。

「この国は王政だけど国の人たちはみんな堂々と胸を張っている。あの人はすごい王様なんだなあ……」
「そうだね。でも僕は、君もそう・・なると思っているよ」

静かに告げられ、アリババは僅かに目を見開く。これまで見てきたシンドバッドの勇姿に自分が重なることなどない。だというのに、アラジンは信じているのだ。

「君がその信念で勇気づけた人たちは、前を向いてそれぞれの道に立ち向かう。君の戦いはルフの導き、運命そのものだ」

霧の団の団員たち、スラムに住まう者、バルバッドの国民、兄・サブマド。

アリババが賢明に戦って、必死に考え、命をかけて示した行動に影響を受けた者たちのことをアラジンは思い出している。
アリババの行いによって、前を向いて生きることを決めた大勢が、希望を胸に生きる姿を。
バルバッドを覆い尽くす白く美しいルフたちを。

「だからこそ運命の逆流は、君をめがけ襲いかかり続けるだろう」

混乱に満ちた世界。戦争、貧困、差別の拡大。
バルバッドに起こった悲劇。これからの未来。

アリババはこの先、何度も戦うことになる。
数え切れない程の争いを経験するだろう。

「―――だけど、君はひとりじゃない」

第7迷宮で血に塗れるアリババの傷を労わり、拭ってくれた誰かがいた。
バルバッドで国の為にもがくアリババに、一緒に考えようと手を差し伸べてくれた誰かがいた。
アリババを先へ進ませるために、共に戦ってくれる誰かがいた。

心が折れそうになるたびに、支えてくれた。
そっと手を重ねてくれた。
いつだって、アリババの隣には、誰かが。

「多くの壁が君を阻むだろう。重い荷に体が押し潰されそうになるだろう。でもそれを乗り越えて、いつか……ずっと遠い未来だけど」

アラジンは自身の右手をそっと持ち上げ、アリババの胸の上に重ねた。

「―――君は、王になるだろう」

「世界を前へと導く先導者になる。―――僕はマギ。そんな君を導くためにやってきたんだ!」