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アリババとアラジンが広場へ戻ると、そこには美しい女性を大勢侍らせたシンドバッドが待っていた。両膝に女性が乗り上げ、その手に胸を押し付けられている。

あまりの光景にアリババが赤面して動けなくなる横をアラジンが走り抜ける。ハルに怒られたばかりだというのに懲りないやつだ、とアリババは尊敬すらしていた。

女性と入れ替わるように集められたのはシンドリアの守護神「八人将」たちであった。遅れて呼ばれたハルとモルジアナが揃うのを確認してから、シンドバッドは上機嫌で口を開いた。紹介を始めるその顔は酒の飲み過ぎで真っ赤になっている。

「こいつがその一人の〜」
「私はもうバルバッドで紹介にあずかりましたよ!」

指をさされたジャーファルが止めるが、シンドバッドは構わず続けた。

「ジャーファルだ。普段は政務官だが、こう見えても特殊な暗殺術の名手で強いから、君たちの修行の相手もきっと務まるぞ!」

少し呆れた様子でジャーファルは「ご所望とあらば」と僅かに首を傾けた。ハルはシンドバッドが酒に酔って金属器を盗まれたという過去を思い出しながら、一国の王がお酒に弱いというのは不憫だなと目を伏せる。臣下は慣れているようだが。

「マスルールはでかい剣を下げてはいるが、アリババくんの剣の師にはむかないぞ〜。小さい頃には剣闘士をやっていたが、やめてからはさぼりっぱなしで剣術などからきしだ!」

マスルールがすみませんと小さく謝っている向かいで、モルジアナが小さく「けんとうしとは?」と呟く。それを聞いたアリババは、レーム大陸で流行っている格闘競技の戦士だと答えた。ウワサに聞いただけだと付け加えたアリババに、モルジアナは自然と視線をハルへ向ける。レーム帝国の騎士であればよく知っているのではないか、という純粋な疑問からだったが、ハルはじっとマスルールを見ていたためモルジアナの意図に気付くことはなかった。

「呼んだか? シンドバッド王よ」

そんな四人の背後から、呑み込むように大きな影が飛び込んでくる。ぎょっとして振り返ったアリババの頭上には、見上げるほどに大きい体躯をした男が銛を手に立っていた。

「極北の秘境、イムチャックの戦士ヒナホホだ! 図体がでかいが、イムチャックの種族は皆こうなのだ、気にするな〜」

ヒナホホの背後から同じ髪色の人間が数名現れる。ヒナホホを父と呼んでいることから彼の子供であることは分かったが、その背丈はファナリスで大柄であるマスルールをも超えていた。酒を飲めない年となるとアラジンと同年代ぐらいだろうか。

「パルテビア帝国の元軍人、ドラコーンだ。竜のような姿だが元々は普通の人間だったし、誠実な男だ。怯えることはないぞ」

紹介されたのは黄緑色の硬い肌と、シンドバッドの言葉通り、竜のような頭部を持った男だった。シンドバッドは「美人な妻もいるんだぞ」と付け加えていたが、ハルは目を見開いてドラコーンを凝視していた。

(パルテビアの元軍人。……あの姿は噂に聞く同化か)

美人な妻に飛びつくのを我慢しているアラジンを見て、アリババは胸を撫で下ろす。さすがの人妻相手ではアリババも全力で止めていただろう。未婚でもダメなものはだめだが。

それからシンドバッドは自身の後ろで取っ組み合いや談笑をしている比較的若い四人をさしながら言った。マグノシュタットのヤムライハ、エリオハプトのシャルルカン、アルテミュラのピスティ、ササンのスパルトス。同盟国から訳あって預かっている王家の子息や、事情があって自国にいられなくなりシンドリアに身を寄せてきた者たちだ。

「アリババくん、君と似たような奴らかもしれないな」

自分に似た、という言葉にアリババは故郷を思い出す。
バルバッドでは多くのことがあって、色々な人たちがいた。

(ここではもっといろんな国のいろんな人が、肩を寄せ合っている)

生まれた国という壁なんて無いように、八人将たちは笑い合っていた。彼らだけではない。アリババと同じように食客としてシンドリアに滞在している者たちも、きっと、国のしがらみを抜きにして支えあい生きているのだ。

「シンドバッド王よ。女遊びも良いが、お主相変わらず妻を娶る気はないのか?」
「おう、そうだぞシンドバッド。子供はいいぞ。お前もたくさん作れ!」
「何を言う。子がいなくても、俺には国民というたくさんの家族たちがいる」

杯を掲げ、国民たちに視線を向けるシンドバッド。それに応えるように島中の者たちが歓声をあげた。
シンドバッド王とシンドリア王国に祝福あれ。
口々に叫ぶシンドリア国民を、アリババはテラスから覗き込む。焚き火に照らされて見える彼らの表情は、幸福に染まっていた。
誰もが幸福に満ち溢れていた。

「シンドリア王国……小さいのに、とても大きな国だね」

何も言わずにいたアリババに、アラジンがそっと声をかける。
アリババはただ「ああ!」と返し、顔を持ち上げた。
自分が目指す先に、この景色と同じものがあることを願いながら。