知らないふりの針の庭
「―――誰だ、王になるのは」
青い巨人は遥か高い場所からアリババ達を見下ろして言った。その視線は宝物庫に辿りついた者たちを流れていく。ジャミル、モルジアナ、そしてハルに目を止めた巨人はその目を細めた。
「懐かしい気配がするのう―――」
瞳を閉じてアリババへと流れたその視線はしばらく静止し、それから巨人は鼻で笑った。その反応に怒りを隠せないアリババが騒ぐと、巨人は軽くあしらうようにしてその巨躯をみるみる縮めていく。そしてアラジンの姿を目に入れた巨人は、深々とその頭を垂れるのだった。
アリババが鼻の下を伸ばして宝をかき集めている頃、ハルは馬の背を撫でて多くのことを考えていた。見つからなかった剣の行方、マギと呼ばれたアラジンのこと、頑丈な部屋、ネクロポリス。一度国に戻るべきだろうかと頭を悩ませていたハルの名をアラジンが呼ぶ。
「アモンくんが、君とお話したいんだって」
「―――分かりました」
ハルが青い巨人二体のもとへと近付く。アモンは探るようにハルを見下ろして、「お主、金属器を持っておるな」と告げた。
「!」
アラジンが驚いたようにハルを見る。ハルは思案してから剣に触れて頷いた。
「ええ、ここに」
「上手く魔法で隠しておるな。ジンは誰じゃ」
「マルバスです」
「マルバスぅ?」
途端に顔を不快そうに歪めたアモンを見て、ハルはいたたまれない気持ちになった。
「それはまた厄介な奴に」
「ハルさんもジンの金属器を持っていたの? どうして教えてくれなかったんだい?」
「―――すみません。あなたは未契約のジンを探しているものとばかり。それに、金属器を持っている、などと。旅人が公に話すのは危険ですから」
「ウーゴくんはマルバスくんとも話をしたい?」
こくこくと体を傾けるウーゴを見て、アラジンはゆっくりとハルの剣に手を伸ばした。
「どうか気をつけて、とんでもない癇癪持ちです」
「う、うん」
アラジンが恐る恐るハルの剣に触れると、アモンの壺に触れたときのように光がアラジン達を包んだ。ハルの剣から現れたのは、もう一体の青い巨人。アモンやウーゴに合わせて体を縮めたその巨人は不機嫌そうに眉間に皺を寄せてハルを睨んでいた。ハルは慣れているようでその鋭い視線を流している。
短髪の若い少年のような姿をした巨人、第5迷宮のジン、マルバスはこの世の全てが気に食わないと言いたげに顔を歪めてそこに存在していた。
けれど、アラジンを視界に入れたとたんその表情が驚愕に染まる。「おまえ、アラジンか!」慣れ親しい友人の名を呼ぶように叫んだマルバスに、アモンは「これ! 無礼じゃぞ!」と叱りつける。反抗期の孫よろしく「うるせえ」と言った自分のジンに、ハルはぐったりと顔を俯かせて深いため息を吐いた。