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モルジアナはゴルタスに言われた言葉を延々と頭の中で繰り返していた。同じ空間に居るハルを気にしつつ、自分がこれからどうすればいいのかを考える。故郷に、帰る―――。何年も考えずにいたことだった。だって、叶うことがないとそう諦めていたから。

「『暗黒大陸は未開』と言われてはいますが、その北端部はレーム領となっています」

突然口を開いたハルの言葉に、モルジアナは肩を跳ね上げる。

「レーム帝国の港から直行便の船が出ていますから、誰でも行けるようになっていますよ」
「え―――」
「……カタルゴを目指すのであれば、私が手を貸します。宛がありますから」

ハルの言葉に、モルジアナは目を見開いて固まっていた。自分の種族のことも故郷のことも話していないのに、どうして詳しいのだろうかという疑問ばかりが頭を埋め尽くした。

そしてどうして、手を貸すと言ってくれるのかが不思議で仕方がなかった。自分は宝物庫でこの人に攻撃をして、ご友人を傷つけたというのに。

そんな戸惑いを隠せないモルジアナに、ハルは沈黙を続ける。自分に出来る最善を選択したつもりだった。偽善だと罵られようと、なにもしないよりは―――。

「ありがとう、ございます」

小さくお礼を口にしたモルジアナに、ハルはそっと息を吐く。

「この空間を抜けた後、私達が同じ場所に転送されるかどうかは分かりません。なので、これを」
「?」

そういってハルが装具入れから取り出したのは手のひらサイズのブローチだった。月桂樹と獅子をモチーフにしたシンプルな銀色のそれを受け取ってモルジアナは狼狽える。

「これをレームの港に居る守衛に見せれば、兵士が乗る定期便を利用することができます」
「……こんな高価なもの」
「私は他人への譲渡を禁止されていませんから、どうか受け取ってください。故郷へ帰り、必要が無くなったのなら売っても捨てても構いません」

言い終えるとハルは上空を見た。筒のように光の膜が上へと伸びていて、その終わりには迷宮の入口にあった光る膜が見える。もうすぐ到達し、元の世界へと戻るのだろう。

「もうすぐ着くようですね」
「……はい」

モルジアナはぎゅっと弱い力で手のひらのブローチを握り締める。その様子にハルは少しだけ目を伏せた。これが最後かもしれないと思いつつ、名乗る。

「私はハル。あなたの名前は?」
「モルジアナ、です」
「海の宝石、か……良い名ですね。素敵な名前を大切に。また会いましょう」

モルジアナが光に照らされるハルを見上げて、返事を返すよりも早く空間は迷宮の出口へと到達した。体が引っ張られるような不思議な感覚が走って、モルジアナは気がつくと道端に座り込んでいた。見覚えのある、チーシャンの郊外。ハルを探そうと辺りを見渡しても鋼鉄の鎧は見えず、モルジアナはただただ走った。これから自分が何をすべきなのかも、漠然としたまま。




チーシャンから遥か離れた北東の地で、ハルは草原の上に転がっていた。その傍では愛馬が心配そうに主人を起こそうと顔を鎧に押し付けている。だがハルに目覚める様子はなかった。