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ハルが初めて兄のことを話したその夜、黄牙の女達と同じテントで眠っていたハルは、何度も何度も夜中に目を覚ましていた。
久しぶりに兄のことを口にしたからか、短い夢の中に兄が出てきた。笑っていたり、怒っていたり、涙を流していたり。生前の姿が鮮明に思い出されて目頭が熱くなる。
兄上、と呼びかけると高い位置にある頭が振り返る。自分と同じ金の髪が揺れて、青磁色の瞳が向けられる。同じ色だというのに、どうして兄の瞳はこんなにも優しさに溢れているのだろうか。
「ハル」
長閑なレームの町並みが一変して、血と炎に包まれた戦場へと景色が変わる。幼い自身の体も鋼鉄を纏っていて、手には剣が握られていた。赤を基調とした聖剣には血がこびりついていた。
「―――兄上」
地面に転がる敵兵や仲間の死体に見向きもせずに駆け出す。悍ましい化物も倒した、敵国の王子も殺した。その従者も兵も、立ち塞がる者は全て切り捨てた。全身の筋肉が悲鳴をあげていた。もう無理だと、これ以上戦えば死んでしまうと。
それでも剣を捨てずに走ったのは、この先に兄が居るからだ。反逆の王と戦っている兄上の元に向かわねば、その御身の盾とならなければ。
そのためだけに私は今日まで―――。
「ハル」
「ハル」
「ッ!!」
苦しそうに胸を抑え、息を呑んで起き上がったハルに、トーヤは心配そうに顔を覗く。魘されていたハルの声で目を覚ましたトーヤは、華奢な肩を揺らしてハルを起こしたのだ。ゆっくりと起き上がったハルは、自身の額に浮かんだ汗をそっと拭って頭を下げる。起こしてすみませんでした、俯いたままそう言ったハルに、トーヤは良いのよと言って背を撫でた。眠ったままのハルが唇を震わせて微かに紡いだ言葉は、確かにトーヤの耳に届いていた。トーヤは言葉を探しつつもその背を摩り続ける。
結局ハルはその後一睡も出来なかった。強引にトーヤを寝かせ、ハルは一人テントの外で美しい星空を見上げていた。しばらくすると村長や男達が目覚め、トーヤもテントから出る。初めて会ったときのように冷たく凛としたハルのその姿を見て、トーヤは初めて悲しい人だと思った。
悲しさを背負った美しい人だと、そう思った。