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「その言動全てが、煌の不興を買うということも分からないのか」
冷たく鋭いハルの言葉に、呂斎がぐっと歯を食いしばる。言い返そうと口を開く前に、ハルは言葉を続けた。棘のある、心底軽蔑してやまないという落胆の見えた声音で。
「たった三人の外交官の足並みが乱れている時点で、煌がどんな国なのかがよく分かる」
兜の下で青磁色の瞳を白瑛に向けてから、ハルは語った。煌帝国の交渉人に対してではなく、その背後で今にも切りかかろうとしているドルジや黄牙の一族に対して。
「黄牙の一族は、何百年に渡り血を存続させ、他国の侵略を許さず、一族の在り方を見失わなかった。力無き者に手を差し伸べ、絆を何よりも尊ぶ。―――私は彼ら程、高潔で温かい民族を知りません。決して惨めなどではない」
呂斎の目をまっすぐに見て言ったハルの言葉に、黄牙の一族達は皆驚きを隠せずにいた。保護してから数日。ハルが自分達をそう思っていることなど知らなかった。白瑛はハルの言葉を聞いて、その片膝を折って跪いた。周囲がざわめき、呂斎は顔を赤くして恥じ入る。自国の皇女が、こんな場所で膝を折るなんて。
「我が国の者の非礼、心よりお詫び申し上げます。貴方の言うことは最もです」
白瑛の姿に、部下である李青舜も膝をつく。白瑛が膝をついているのに立っている訳にもいかず、呂斎も膝をついた。その屈辱に耐えるために再び歯を食いしばる。
「日を改めて、交渉の席を、どうか」
ババと白瑛が言葉を交わすのを見て、どうにか事を収められたと判断したハルは振り返って俯いたままのトーヤの背に手を添えてテントへと戻った。トーヤを心配そうに見ていた女達も、頭を支配していた怒りが霧散したドルジも、ハルの背を見つめる。
テントへと入ったハルは、トーヤの手から盆を受け取って机に置いた。体を押されるまえに腕を掴むことはできたが、トーヤが驚いたからか馬乳酒が少し溢れてしまっていた。トーヤに向き直ったハルはぎょっとして目を剥く。トーヤの目からはぽろぽろと真珠のような涙が落ちていたからだ。
「すみません、もっと早くあの場から遠ざけるべきでした。怖い思いをさせてしまって」
「違うの、そうじゃないの」
そう言って顔を覆ってしまったトーヤに、ハルはただ棒立ちして傍に居ることしかできない。理由が分からずに困っているであろうハルに向けて、トーヤは震える声のまま言う。ハルの言葉が嬉しくて、泣いているのだと。
ハルは、ただその肩に手を置いて落ち着かせようと努める。白瑛らが帰ったことでテントにやってきたドルジは、泣いているトーヤを見てぐっと堪えるように目元に力を入れてから、そのそばで狼狽えているハルに近付いて、預かったままだった剣を手渡した。
「ハル、ありがとな」