こころの隅に錆を飼う


煌帝国の皇女が村を訪れた夜、アラジンが白瑛のもとへ飛んでいくのを見送ったハルは、ドルジと共に荷運びを手伝っていた。ハルがその見に合わない剛力の持ち主だと知ったドルジが驚愕で目を剥いていると、テントの外が騒がしくなる。不思議に思った二人が外へ出ると、男衆が揃って何かを話していた。焦りを見せるその表情にドルジが嫌な予感を抱いて歩み寄る。

「村の女たちがいないぞ?」

口々に姿が見えないことを告げる家族に、ドルジは息を呑む。近くには車輪と争った跡が残されており、村の女たちが連れ去られた可能生を示唆していた。アラジンが煌帝国の陣営へ向かう馬車を見たという発言で確信する。

奴隷狩り

頭を抱えて嘆く背。それを見たアラジンは第7迷宮で出会った二人の奴隷を思い出していた。女たちを救うために騎馬隊が向かうことになり、ハルも愛馬を連れて準備を進める。「一人でも殺せば戦争になる」そう告げたババはハルの名前を呼んだ。お主が行く必要はないと付け加えて。

「邪魔はしません。トーヤ達を救いたいだけです」

まっすぐにババの瞳を見て言ったハルを、アラジンはじっと見つめる。ババはしばらく考えてから頷いた。ドルジが暴走しないよう見ていてやってくれ、と頼んで。






煌帝国の兵士に捕らわれたトーヤたちは、縛られて荷台に転がされていた。昼に来た交渉人と似た格好に、自分達は騙されていたのだと気付かされる。剣を頬に当てられて、体が恐怖で震えるのが分かった。
黄牙の一族が頑丈な生き物だと証明するために胸に剣が突きつけられる。先が肌に沈み、鋭い痛みが走った。剣はすぐに抜かれたものの、肌を滑るようにしてお腹に当てられる。恐怖でどうにかなりそうだった。

「延々と子供を作らせるんだよ。大量に繁殖させれば、俺たちはずっと儲けられる……長いこと可愛がってやるよお嬢ちゃん」

堪えていた涙が頬を流れる。
必死に家族の名前を心の中で叫んだ。

―――助けて、ドルジ






視界の先に見えた馬車の姿に、ハルは弓を手に取った。追っ手に気付いた煌帝国の兵士が騎馬隊に向かって弓を向ける。騎馬隊は飛んでくる矢をいとも容易く躱していき、馬車へと迫っていった。

ハルはその間に前方へと回り込み、運転手二名を確認すると矢を放つ。狙ったのは奥側の運転手の腕。ハルが引いた弓から発射された矢は、まっすぐに運転手の左腕を貫いた。

「ぐあっ!」
「貴様!」

手前の馬車の男が剣を手にしたのを見て、ハルも弓を仕舞い、剣を抜く。両手での攻撃を片手で受け、ぎりぎりまで馬を近づけてから馬車へと乗り込み、男を奥へと押しのけた。続けて追撃をすると足場を踏み外して男は馬車の外へと落ちていった。ハルは剣を仕舞って馬の手綱を引き、歩みを止める。腕を負傷した運転手の方も黄牙の男達が捕らえたようで、二台の馬車は停止した。

逃げ出すように散った煌帝国の兵士や奴隷商人を黄牙の一族が追い詰める。ハルはその光景を見て敵に回ったら厄介な機動力と統制だと実感して、ドルジの姿を探した。馬車へと乗りあげ、剣を振り上げるその背に向かって叫ぶ。

「ドルジ! 思い出せ!」