光なのだと信じていたい


村に戻ったハルは、テントの外で座り込むアラジンのそばで馬を降りた。歩み寄ってきたハルを見上げてアラジンは問う。

「おばあちゃん、助かるよね?」
「傷を見ていないのでなんとも言えません。族長殿はかなりご高齢ですし、私達が助かるような怪我でも、致命傷となることもあります」
「……」

きゅっと膝を抱えたアラジンの姿に、ハルは口を噤む。その横に並ぶように立って、ババの治療が終わるまでそこに居た。しばらくしてから治療をしていた者が外へ出る。周囲に黄牙の一族が集まって、言葉を待つ。

傷が深く大量に血を流しており、もう助からない。今夜が峠になるだろう。男の言葉に女達が泣き崩れる。男達は涙を堪えてから怒りに震えた。奴隷狩りだけじゃ飽き足らず、自分達の家族を殺そうとした敵。その表情が険しく変わっていくのを、ハルはただ黙って見つめていた。

気づけば日がのぼり、あたりは明るくなっていた。黄牙の一族がテントの外で言い争うのを聞きながら、ハルはババのそばに寄り添うアラジンの背を身守る。

武器を持って迎え撃つ準備をする男達に、アラジンは声をかけた。

―――本当に戦いに行くつもりなの? 本当にそれでいいの?

ドルジの耳に届いたその言葉は悲痛で、ドルジはアラジンの名を叫ぶ。人の流れに逆らえずに流されていき、姿が見えなくなったドルジのことを、怒りのままに歩いていく男達のことを、アラジンはずっと見つめていた。


「ねえ、ハルさん。“誇り”って、命を奪い合ってまで守らないといけないものなの?」

アラジンの言葉に、兜の下でハルはその目を細める。そして言った。いつものように淡々と、それでいて力強い声で。

「誇りの重さは、他人には決して推し量れないものです」
「……」
「あなたは命を第一に考えるべきだと思うでしょうが、誇りに対する思いは、人それぞれに答えがあります」
「―――うん」
「命を落としてでも戦って守らなければならないもの。今の彼らにとってはそうなのでしょう」

ハルの言葉にアラジンは俯いて考え込む。

「煌帝国の出方次第では多くの死者が出ます」
「向こうのお姫様は、侵略も戦争もしないって言っていたよ」
「それが本当なら、昨日の奴隷狩りや族長殿の襲撃も、皇女殿下とは無関係なのでしょう。軍の内部で彼女の志をよく思わないものが、独断で行動を起こしたのかもしれません。ならば目的は彼女が黄牙の一族に襲われて命を落とすこと。そうすれば煌の軍人達は大義名分を得てこの村を蹂躙します」
「―――そんなことさせない。誰も死なせたくないんだ」
「……怒りに支配された状態で、話し合いは望めません。なんとか彼らの怒りを静めなければ」

アラジンはテントに戻ってからババの杖を手に取った。これでなんとか、話しを聞いてもらえるようにしないといけない。強い決意を持ってテントを出ていったアラジンに、ハルも後を追った。剣の柄に触れて、昔のことを思い出しながら。