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夕食の席から離れ、モルジアナは屋上でひとり膝を抱えていた。
どうして奴隷なんてものが存在するのか。人間を鎖で繋ぐなんて、誰が思いついたのか。奴隷だった頃は一度も考えたことがなかったことを、モルジアナは考えていた。
チーシャンで出会った少年は言ってくれた。鎖を切れば、奴隷でもどこへでも歩いて行けると。
―――あの子は、どこかで元気にしているかしら? 私を解放してくれたあの男の子も。
モルジアナはポケットの中を確認するように手を滑らせる。少し硬い感触が手の平に伝わり、そっと手を差し入れて中身を取り出した。布に包まれている物を壊さないように丁寧に布を開いていく。
出てきたのは月桂樹と獅子をモチーフにしたブローチ。ハルから渡された、レームの港で使えるという通行証だ。精巧に掘られた獅子の模様を恐る恐るなぞり、モルジアナはハルのことを思い出す。
迷宮を脱出したあと、モルジアナはチーシャンの郊外に、アリババは迷宮の跡地に。けれど、アラジンとハルはどこを探しても居なかった。ハルと分かれる直前に言っていた言葉を思い出す。
―――この空間を抜けた後、私達が同じ場所に転送されるかどうかは分かりません。
「(あの人は、皆が散り散りになることを予想していた。以前にも、経験したことがあったのかしら)」
モルジアナは再びブローチを布に包むと、ポケットの中に仕舞い込んだ。バルバッドへ向かい、そこからレームを目指して船に乗る。そしてこの通行証をレームの守衛に見せれば、
―――故郷に行ける。
そう考えると、胸にこみ上げる何かがある。胸のあたりが熱くなって、自然と目に力が入った。
ハルと名乗った、見慣れない鋼鉄の鎧を着た人。豪商から自分を助けてくれた人。奴隷の自分に優しさを与えてくれた人。自分の名前を、素敵だと言ってくれた人。
―――名前を大切に、なんて。初めて言われた。
「レーム帝国に行ったら、あの人にも会えるかしら」
そんなことを考えながらライラ達のもとへ戻ったモルジアナに、隊商長が、バルバッドには向かわないことを告げた。驚くモルジアナに隊商長は言葉を続ける。バルバッドへ向かう一本道に盗賊団が住み着いてしまった。自分の友人の隊商も襲われて隊員を数名失ったことを。
「もし、誰かがその盗賊団を倒せたら―――道は通れるようになりますね?」
モルジアナの言葉に隊商長は頷く。けれど、無理な話だと肩を落とした隊商長の発言を聞いて、モルジアナは決意したように顔をあげた。