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早朝に目を覚ましたハルが愛馬の様子を見に行き、その後始めた鎧の手入れを終えた頃にアラジンとモルジアナは目を覚ました。昨夜、ハルが一人部屋を抜け出す少し前、アラジンはウーゴとモルジアナが打ち解けられるように機会を作ったのだ。ウーゴはハルの姿を見て一瞬だけ吃驚したように飛び退いたが、ハルが以前のような強引さを見せなかったことからほっとしたように胸を撫で下ろしていた。チーシャンで刑吏から逃げる際はハルが全身に鎧を纏っていた為、意識することがなかったようだった。
「おはようございます、ハルさん」
「おはようハルさん。早起きだねぇ」
「二人共、おはようございます。目が覚めたのならお話が」
ハルの言葉に二人が首を傾げる。ハルは手にしていた籠手を机へと置き口を開いた。昨日使用人に聞かされた「盗賊団」の話だ。その影響は凄まじく、モルジアナがカタルゴへと向かう船を止めてしまうほどだった。その盗賊団の頭領の名が、アラジンが探している友人と同じ名のアリババ。アラジンはそれを別人だと信じて疑わなかった。
昨夜得た情報のいくつかを選んでハルは二人に話した。その盗賊団はもともと小規模のコソ泥程度の存在であったこと。しかし二年ほど前に城の宝物庫を破り大金を得たことで規模が拡大し、もはや国軍も手に負えない存在になってしまっていること。彼らは奪った金品を困窮したバルバッドの民に分け与えているため、一部の市民から英雄扱いされていること。最後の説明にアラジンは顔を持ち上げる。
「良い人ってこと?」
「一部の市民にとってはそうなります。ですが彼らは盗賊です。他人の財産を武力によって奪っていることに変わりはない。二人はこれまでの旅の中で何度も見たはずです。盗賊によって多くのものを奪われてきた者たちの姿を」
「……」
「彼らの行いで傷つくものが居るのです」
「うん……」
「盗賊団の頭領以外でアリババという名を聞いたことがあるかも聞いてみましたが、そちらはなにも。盗賊団が存在する限り、バルバッドから船を出すこともないそうです」
しょんぼりと肩を落とした二人につられハルも表情を曇らせる。ハルが意図して話さなかった情報。それは、盗賊団が不思議な魔術を身に付けているというものだった。怪傑アリババの使う魔術「炎の壁」。それによって国軍は盗賊団を捕らえることができないのだということ。
「―――これからどうしようか、ハルさん」
「まずは腹ごしらえを。それから皆で考えましょう。モルジアナも、それで構いませんか」
「……はい」
二人がゆっくりとした足取りで顔を洗いに行くのを見送ったハルは、てきぱきと鎧を身に纏っていく。アラジンが戻ってきた頃には首から上しか外に出ていなかった。そのまま兜を被ってしまうハルにアラジンが残念そうに「ああ」と呟く。
このホテルについた直後、シンと食事の約束をしていた三人がロビーへ向かうと、ちょうどシンがホテルの入口に入ってくるところだった。その傍らには部下の二人も揃っている。
―――商談にでも行っていたのだろうか。
ハルがそう考えていると、通路を歩いている三人に気付いたシンが顔を綻ばせる。
「やあ、おはようみんな。今日はいい天気だな」
「おはようおじさん! そうだね!」
シンとアラジンが朗らかに挨拶を交わす中、他の四名は静かに視線を合わせるとそれぞれがぺこりと頭を下げて挨拶をした。そんな四人に近寄り、シンが咳払いをしてからハルへ話しかける。
「ハル、昨日の、会った直後のことだが」
「?」
「謝罪させてくれ。女性に見せていいものではなかった。すまない」
「……いえ、私も忘れますので。シン殿もどうか忘れてください。本当に気にしていませんから」
アラジンとモルジアナが不思議そうに二人を見比べる。ただ一人カフィーヤを被る青年は酷く冷め切った目でシンを見ていたが、深刻そうなシンに慌てているハルに気付くと表情を和らげた。シンの話を聞く限り、ハルも子供に変わりはない。
―――そしてそんな子供に全裸を晒した男が自分の主とは。別の男だったら即刻縛って刑吏に引き渡しているところですよ……。
「ジャーファルさん? シンさん、もう行ってますよ」
「ハッ! すみません、マスルール。―――私達も行きましょう」
目元を覆っていたジャーファルという青年が歩き出し、赤髪の青年マスルールも続く。二人の視線の先では、バルバッドの気候に適さない様相のハルが居た。
鎧のせいで身長はジャーファルとそう変わらないようにも見えるが、シンが言うに、鎧を脱いだ状態では十センチ程縮んだように見えたという。しかもかなり若く、布越しでも分かるほど美しかったと。そんな少女が鎧を纏い、顔を隠している理由は明白だ。自衛だろう。
ジャーファルが憂いのため息を吐いているその先ではシンがたくさんの料理を注文し、アラジンとモルジアナが目を輝かせていた。