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アラジンとモルジアナが食事をしている間、ハルは面頬をあげて水を飲むだけだった。アラジンが鯛を分けようと匙を差し出すが、ハルは今朝方食べた果物で腹が膨れているからと断った。

―――そういえば、ハルさんが食事をしているところをあまり見ないわ。

モルジアナが美味しいエウメラ鯛を咀嚼しつつ考えこむ。ハルは隊商で開かれた宴でも水を飲むだけだった。

(少食なのかしら)

そんな三人に、シンが部下の名前を紹介する。ジャーファルとマスルール。それぞれを指差しながら名前を教えたシンは、マスルールの名の次にモルジアナを呼んだ。

「マスルールはな、ファナリスなのだよ」

その言葉にモルジアナが驚愕で目を見開き、マスルールを見た。マスルールは感情の見えない表情のまま視線を返す。目元がそっくりだと微笑ましそうに言ったシンに、モルジアナとマスルールは「……どうも」と揃って顔を伏せた。

食事を終えたアラジンはハルとモルジアナを引き連れてマスルールの元へ向かう。年下四人が親睦を深めている様子をジャーファルは穏やかな眼差しで見守っていたが、切り替えるようにシンに話しかけた。バルバッド王と交わした約束、この国を騒がせている「霧の団の退治」のことだ。

世話になった先王の国を戦火に沈めさせやしないと語るシンの後ろに現れた物体にジャーファルは口に含んでいた飲み物を吹き出す。それは、マスルールに自分の友人を紹介したかったアラジンが出現させた、ウーゴのたくましい両腕だった。


騒然とする店を離れ改めてウーゴの全身を出現させると、シンは驚いたようにその巨体に手を伸ばす。そして「君もマギだったのか」とアラジンに言った。

「君も? おじさん、ほかにもマギを知ってるのかい?」
「ああ、知っているとも。別に仲良しというワケではないがね」

その言葉に驚いたのはハルだ。一商人がマギについて詳しく知っているのはおかしいとハルが警戒心を強める中、アラジンは正体を問う。勿体ぶることもなく、シンは自分の素性を明かした。

シンドリア王国の国王、シンドバッド。

「!?」

アラジンの背後で大げさに体を揺らすハルと、「聞き覚えがある程度」の知識しか持っていなかったアラジンが首を傾げる。モルジアナは特に何の反応も見せなかった。

シンドバッドは期待していた反応を得られずに狼狽する。もっと「凄い!」「あのシンドバッド王?」「本物!?」なんていう反応を予想していたのだが、一番の反応を見せたハルでさえ、ガシャンと鎧の音を立てて身じろぎをしただけだった。

「そ、その反応を見るに、ハルは俺を知ってるんだよな!」
「そうなの? ハルさん」
「ご存知なんですか?」
「―――勿論、知識として知っています。始まりの迷宮を攻略し、未開であった絶海の孤島を開拓、その後王国を興した伝説の冒険家」
「おお! 知ってくれていたか! 安心したよ!」

やっと胸を撫で下ろしたシンドバッドを、ハルの説明を聞いたアラジンが興味深そうに見る。冒険書をアリババが読んでいたことを思い出したアラジンがそれを口にすると、シンドバッドは嬉しそうに笑った。そんなシンドバッドを前に、ハルだけが酷く動揺したように震え始める。ジャーファルとマスルールがその動向に意識を向けていると、ハルはその場に片膝をついた。

「シンドバッド王よ、数々の非礼をお詫びいたします」
「えっ!?」

突然の謝罪に全員が驚きで目を見開く。謝られた本人すら心当たりがなくて驚いている始末だ。ハルは深く俯いたまま言葉を続けた。

「初めてお会いしたとき一目見て危険人物だと決めつけ、あろうことか剣を向けてしまいました。それだけではありません。公衆の面前で、一国の王にあのような醜態を晒させてしまうなんて……私はどうお詫びをすれば」
「お、落ち着いてくれ! 君に非はない!」
「一切ありませんね、全てシンの責任です」

部下の言葉を耳に入れつつシンドバッドがハルを立たせようと肩を掴むも、ハルの体はびくともしなかった。

「えっ、この子、力が強いな!?」

一回り年下の女の子に局部を晒した挙句、謝罪までさせている自分に向けられるジャーファルの視線がどんどん冷えていく。その後シンドバッドに呼ばれたマスルールの手によって強引に立たされたハルだったが、その兜は俯きがちだった。見えないが表情はこの世の終わりのようになっているのだろう。一国の王に剣を向けた人間がどうなるか。バルバッド王が相手ならば即刻死刑になってもおかしくはなかった。ハルの素性が明らかになれば国交問題になりかねない事態である。

「ハルさんは私達を守るために剣を抜いたんです。だから」
「勿論分かってるさ。そもそもあんな格好をしていた俺が悪かった」
「しかし」
「まあまあ。よく分からないけど、おじさんがこう言ってるんだから良いじゃないか。ね?」
「……アラジン」

ジャーファルとマスルールの視線がシンドバッドにビシビシ突き刺さる中、ハルが落ち着きを取り戻したように息を吐いた。

「すみません、取り乱してしまって」
「いや、いいんだ。君は真面目でいい子だね」

シンドバッドが困ったように笑い、ハルの頭頂部をポンポン叩く。ハルは兜の中で情けなく眉を下げた。―――シンドバッド王が優しいお方で良かった。これが噂に聞く煌帝国の苛烈な皇帝であれば、その場で首を斬られていてもおかしくはない。心底安心したように息を撫で下ろすハルを確認してから、アラジンはシンドバッドに聞きたいことがあるんだと口を開いた。

自分自身を知るために「マギ」が何を表すのかをシンドバッドに聞いたアラジンは、自身がルフに愛される存在であることを教えられる。ジンを実体化させ続けることが出来る魔力量、そして自分以外のルフが生み出す魔力を、自由に使うことが出来る存在、それがマギ。


「そんな凄い君に一つ頼みがあるんだが」
「なんだい?」
「実は今、とある戦いを控えているのだが、俺にはとある事情で」

言葉を区切ったシンドバッドにアラジンら三人の視線が集中する。

「金属器が今、一つもないんだ!」
「7つ全部盗まれたんですけどね」