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「霧の団」を捕まえると言ったシンドバッドに、アラジンとモルジアナが表情を変える。その言葉に異議を唱えたのは部下のジャーファルだった。腕を広げてアラジン達の前に立ちはだかると、子供に危険なことはさせられないと抗議する。

「年齢は関係ないだろう? 一番肝心なのは、盗賊に相対する力があるかないかだ」

死地に必要なのは生きた年数ではなく能力であり、アラジンにはそれが備わっていると話すシンドバッドに、ジャーファルは不安を隠せない表情のまま口を閉ざすしかなかった。

「どうしようか。ハルさん、モルさん」
「やりましょう」

モルジアナの即答にハルが目を丸める。モルジアナは、部屋でハルが話をしてくれた時から盗賊団を倒すことが出来れば船が出るだろうと考えていた。なによりシンドバッドがバルバッド国王と親交があるのなら、人探しに国が協力してくれるかもしれないと口にした。シンドバッドは、盗賊団を捕らえることに成功したら、そのどちらにも協力すると答えた。

その言葉にモルジアナとアラジンが顔を明るくさせ、「やるよ、盗賊退治!」と握手を交わす。そのまま作戦会議のために場所を移動しようとするハルとモルジアナの名前を呼んだシンドバッドは「君たちは宿で待っていてくれ」と爽やかな笑みを浮かべた。

「―――!? あの、私も戦います」
「同じく。アラジンだけを戦わせるわけにはいきません。そもそも私は子供という年齢でもありません」
「子供ではないが、ハルは女性だ。華奢な君を戦いに巻き込むわけがないだろう? モルジアナも、いくらファナリスでも、女の子を戦わせらんないよ」
「……」「……」
「ここは男の俺たちに任せて、部屋で待っていてくれ! なっ!」

ぐいぐいと二人の背を押すシンドバッドの言葉に二人は口を閉じる。押されるがまま一歩を踏み出したモルジアナの右足が大きな音を立てて地面にめり込むと、驚いたシンドバッドが動きを止めた。振り返ったモルジアナがむくれた表情のまま言う。

「私も戦います! 目的のために、盗賊団をいくつだろうとしとめる覚悟です」
「気遣いは無用です。私の剣は飾りではありません」

女性二人組からじろりとした刺々しい視線を向けられ、シンドバッドが恐る恐る背から手を離す。ひょっこり顔を出したアラジンは不穏な空気に気付かないままシンドバッドに声をかけた。

「二人共凄く強いんだよ。この間も、そこの採石場砦の盗賊団を二人でかいめつさせたもの。僕、捕まってたところを助けてもらったんだ!」
「えっ!?」

アラジンの言葉にシンドバッドが青褪める。

―――マギが捕まった盗賊団を女性二人で壊滅。

シンドバッドは震える体を抱きしめて「今時の女の子は強いんだね」と力なく笑った。




作戦会議のために宿へ戻ったアラジン達は、シンドバッドが借りているという部屋へと通された。はじめにジャーファルの口から盗賊団の活動傾向についての説明があった。

盗賊団が動くのは霧深い夜であり、狙われるのは国の倉庫や金持ちの屋敷。そして毎回警備の裏をかき国軍の手が薄い所を狙うこと。内部から情報が漏れている可能性が高いこと。市民の多くが盗賊団に協力的で、街に逃げ込まれたら見つけられないということ。

「街の人が味方するのは、盗賊団の人が奪った金品を配っているからだよね」
「! はい。そのことから彼らは義賊と呼ばれ、市民から人気があります」
「アラジン、どうして知っているんだ?」
「ハルさんが教えてくれたんだ」
「……昨夜、街で聞き込みをしたので情報共有を」

シンドバッドとジャーファルの視線がハルに向けられる。

「女性の夜歩きは関心しないな。美しいお嬢さんなら、尚更だ」
「全員返り討ちにしたので問題ありません」
「―――ならよし!」
「よくありません! なにかあってからでは遅いんですから!」

ジャーファルが切り替えるように一つ咳き込み、説明を再開させた。

「中でも最近人気なのは、怪傑アリババと呼ばれるリーダー格の男だそうです」

アリババの名にアラジンが表情を強ばらせる。貧しい人を助けるという行動はアリババがしそうなことだが、アリババと盗賊を結びつけることがアラジンには出来なかった。
そんなアラジンを横目に見て、モルジアナが恐る恐る口を開く。

「国民が支持している人を捕まえてしまうことは、正しいのでしょうか?」

モルジアナの言葉に、シンドバッドは「俺は正しいと思っている」と答えた。そして自分の考えを口にする。霧の団が奪った金品を市民に配るのは、自分達の盗賊行為を正当化するための行動ではないか、と。

「俺は自分で、自分の頭で考えて、正しいと思える答えをだした」

椅子から立ち上がったシンドバッドが、アラジン達に一人一人目を向けて言葉をかける。

「君たちも考えて自分で決めてくれ」

全員の視線が突き刺さる中で、シンドバッドは意志の強い瞳を輝かせる。ハルはその瞳にこれまで出会ってきた何人もの人間を重ね、自然と呼吸を止めていた。

「何がいいのか精一杯考えて考え抜いて、自分たちの導き出した答えを信じて行動して欲しい。俺はそうやって道を切り開いてきたが―――君たちはどうだろうか?」
「僕も考えてみるよ」
「私も」
「……はい」

三人の答えを聞き、シンドバッドは「よし」と強く頷いた。

―――これが「七海の覇王」か、とハルが一人納得していると、シンドバッドが小さくハルの名前を呼んだ。呼ばれるまま返事をしたハルを窓際まで導いて二人だけになると、シンドバッドは声を落として言った。

「君は、アラジンやモルジアナが戦うから仕方なく参加しているのではないか?」
「? いいえ」
「君たちの会話を聞いていたが、ハルは『子供だけ戦わせるわけにはいかない』と言っただけだ」
「……」
「戦力があるに越したことはないが、強制したいわけじゃない。……君の本音を聞かせてくれないか」

シンドバッドの気遣うような表情にハルは開きかけた口を閉じる。言われて始めて、ハルは自分に主体的な意志がほとんど無いことに気付いた。これまでもハルは流れに身を任せるだけだった。隊商の護衛、アラジンの旅に同行したこと、アリババの迷宮攻略に協力したときもそうだ。いつだって誰かの提案を受け入れていただけ―――。

いや、

―――記憶を辿り、思い出す。常に受身の自分でも、自ら行動することはあった。誰かの意志ではなく、望まれたわけでもない。利益や損得のためでもなく、国の関係性すら忘れて、この体が突き動かされる瞬間が何度もあった。

全てに共通するのは、それが自分の信じる正義に従った行動だったこと。

助けを求める人間を放っておけないことも、悪意によって人の命が奪われることが許せないのも、全て自分の中の正義に従った末の選択だった。

どんなときでも悪に対抗し、正義を守る。
この誓いが、私の揺らがない正しさだった。

―――そうして道を切り開いてきたのだ。

「バルバッドに個人的な思い入れはありません」
「……」
「ですが」
「!」
「霧の団によって国が荒れている。その影響で苦しむ人がいるのであれば、見過ごすことなどできません。たとえ私には関係のない、遠い異国の民であっても同じこと」
「……ハル」
「改めてお願いします、シンドバッド王。私も、共に戦わせてください」
「ああ、勿論。心強いよ」

シンドバッドの差し出された手を、ハルの鎧に包まれた手が握り返す。信念の篭った真っ直ぐな視線を向けられ、シンドバッドは眦を緩めて笑みを返した。