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屋敷の入口に立ちはだかるウーゴの姿に盗賊達が絶望の表情を浮かべる。ただ一人だけ、恐怖すら浮かべずにアラジンを見上げる男がいた。アラジンはまっすぐにその瞳を見返して(あれ?)と思う。

―――あの瞳を、僕はよく知っているような。

アラジンはどくどくと自分の心臓の音が早く大きくなっていくのが分かった。男が頭に巻きつけていた布を手にかけ外していく。

少しずつ外気に晒されていったのは温かみのある色の髪、同じように優しいオレンジ色の瞳。半年前に旅をした友人だった。
大切な約束をした、友人だった。

「アリ、ババくん……」

盗賊団に紛れ、盗賊と会話をするアリババの姿にアラジンが戸惑いを隠せずにいる。アリババはかつてのようにアラジンの名前を呼び、仲間が怖がっているからウーゴをしまってくれと頼んだ。ジャーファルの止める声も届かず、アラジンは素直にウーゴを笛の中へと仕舞ってしまう。色々な感情や疑問が湧き上がるも、アラジンが表に出したのは友人と再会できたことへの喜びだった。あのね、アリババくん。そう話すアラジンの声は跳ねるように高く、その場の空気にはそぐわない。

「僕、アリババくんに会いに来たんだよ! 話したいことがたくさんあるんだよ!」
「……」
「あの時のことを覚えているだろう? 約束したもんね!」

表情を明るくさせて自分を見上げるアラジンを、アリババは黙って見下ろす。アラジンの名を呼び手を伸ばすも、続いた言葉はアラジンへの謝罪だった。

アラジンが伸ばした手は空を切り、

「約束は、守れなくなったんだ」

アリババの手はアラジンを退けた。



国軍がすぐそこまで迫っているのを見て、アリババが剣を構える。

「厳格と礼節の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず、我が魔力を糧として、我が意志に大いなる力を与えよ」

アラジンとハルは動かない。

「出でよ、アモン」

突然現れた炎の魔人に兵士が恐れ身を引く。アリババによって作り出された炎の壁に阻まれ、国軍は逃げる盗賊を捕らえることが出来なかった。その後兵士によって消火活動が行われるも、全て終わる頃には夜が明けていた。


既に合流していたシンドバッドが、ハルへと歩み寄る。

「ジャーファルから聞いた。ほとんど一人で屋敷を守りきったらしいな。この家の者が君に礼を言いたいと呼んでる。警備兵としてハルを雇いたいってさ」
「……私は騎士です。仕えるべき主は既にいる。それと、礼も不要です」
「……」
「私情を挟みました。もしかしたら、次の被害を事前に食い止められたのかもしれないのに」

俯きがちのハルを見てシンドバッドは眉を下げる。

「霧の団の頭領は、君にとっても大事な友人らしいな」
「……ほんの短期間、共に過ごしただけです。互いのことは何も知らなかった」
「それでも君は彼を捕まえることを躊躇した。よく知らない関係でも、それぐらい大事ってことだ」

シンドバッドの言葉にハルは目を閉じる。気を遣う視線に目を開けたハルは「断りを入れてきます」と言って屋敷の中へと消えていった。シンドバッドの視線は自然とアラジンへと向かう。
アラジンは、アリババが消えていった方向をただ見ていた。




その夜、霧の団のアジトでは新しい仲間を受け入れるために多くの団員が集結していた。採石場砦だった盗賊団アジトから逃げ出したナンド三兄弟だ。頭領としてアリババが座る下には、カシムと最初にハルの攻撃を受けて気絶した二人も揃っている。アリババは霧の団が義賊であること、スラムのために戦っていることを話す。

アリババの脳裏に蘇るのは刺のあるハルの言葉だった。

「盗賊気分できたねぇ盗みをするんじゃねえ」
―――盗賊団の存在で国が荒れ、多くの人間が傷付いている。

「スラムの者たちを一切傷つけるな。もし、これを破ったら……」
―――この国で居場所を失った者が、国境で奴隷狩りの被害に遭っている。

「命で償ってもらう。それでいいよな」
―――救うべき命を排斥している霧の団は義賊ではない。




豪商の屋敷でハルに負わされた損害は激しく、あの場に居た多くの団員が怪我を負わされた。なにより何も盗めなかったことが痛手だった。屋敷の中へ入ろうとすれば即座にハルが飛んできたため、誰ひとり屋敷の中へ入ることが出来なかったのだ。

―――まだ備蓄はあるが、次もまた収穫なしじゃ食料が尽きちまう。

アリババはハルの姿を思い出す。

(ダメだ。あいつの強さはよく知ってる。カシムの黒縛霧刀すら躱しちまうとは思わなかったけど……ハルには誰も適わない……)

―――いや、俺なら……俺の金属器の力ならもしかしたら。

そこまで考えてアリババはぶんぶんと頭を振った。

―――なんであいつと戦わなきゃいけないんだ! 俺の頼みを聞いてくれた恩人だぞ!? ……一緒に迷宮を攻略してくれた友人なのに……。けど、次に会ったら俺がハルを退けないと……スラムの皆が生きていけなくなる。

(くそ……くそッ! どうしたらいいんだ。いっそあいつらに事情を―――いや、だめだ。一人でなんとかするって決めたじゃねえか!)

自室で頭を抱えるアリババが、寝台にそっと体を横たえる。天井に張り付く見覚えのありすぎるファナリスの少女の姿に、アリババが悲鳴を上げるたのと同時刻、ハルはシンドバッドらと共に情報を整理しているところだった。