ひかりという研ぎ澄まされた欠損
大将同士で決着をつけようと言ったシンドバッドが、アリババに剣を向けている。モルジアナがそれを止めようと踏み出した体を、ジャーファルの腕が引き止めた。焦りを隠せずにアラジンやハルに顔を向けたモルジアナだったが、二人は微動だにせずにシンドバッドの背を見つめている。アリババの身が危険だというのに、何故二人は動き出さないのか。そのもどかしさを抱えて、モルジアナは同じようにシンドバッドに視線を向けるしかできなかった。
マスルールの手で拘束されていたカシムが、アリババを逃がすよう部下に命令を飛ばす。それを見て、シンドバッドは逃げても構わないという旨を話した。霧の団の実権はカシムが握っていたのだから。なにより、アリババは彼らとは「違う人間」なのだから、そう言って。
アリババがシンドバッドの言葉の真意を掴めずに困惑する中、ハルは兜の下で僅かながら眉を顰めていた。
「彼らは『スラム街の人間』。君は、表面上は仲間のふりをしていても、実はそうじゃないだろう? 君と彼らは違う……」
―――だって、君は王子様だ。
そう続けたシンドバッドの言葉を遮るようにアリババは叫んだ。感情のままに声をあげるアリババの表情は険しく、耐え難い怒りを抱えているようだった。
「俺とこいつらに何一つ違いなんてねえ!! こいつらみんな、俺の大切な故郷の兄弟たちだよ! それを……その絆を、バカにすんじゃねぇ!!」
アリババが腰の剣を抜き詠唱を口にすると、アモンの剣から炎が出現しアリババを包む。金属器ではないただの剣を持つシンドバッドとアリババの一騎打ちが始まるも、その決着はすぐについた。シンドバッドの使う不思議な力、魔力操作によって炎を消されたアリババは、簡単に膝をつかされてしまったのだった。
「君はジンの使い方をまるでわかっていない!」
腹を殴られた痛みで地面に転がるアリババを国軍につき出すとシンドバッドが口にする。その後、霧の団の団員たちも同じように処刑されるだろうと続けると、盗賊たちはみるみる表情を変えていった。死罪の言葉に怯えた盗賊たちの多くは、「冗談ではない」と言ってホテルの屋上から逃げ出していく。
最後まで残ったのは半分にも満たない少数だけ。自分が集めた霧の団の組織が、いとも容易く瓦解していく様を目の当たりにしたカシムが、打ちひしがれるように脱力していく。
愚かで無謀な行いだと言うシンドバッドに、カシムはこれまで国軍に負けなしだったことを引き合いに出したが―――それは国軍から情報をもらっていたからこその結果であり、霧の団の力では無かった。
その情報を貰っていても、たったひとり、強い人間が前に立ちはだかるだけで霧の団は立ち行かなくなる。カシムはその言葉にハルへと視線を向けた。強力な魔法道具も多くの部下も、全く歯が立たなかったひとりの騎士に。
悔しさで歯を食いしばるカシムに、シンドバッドは続ける。
「己の無力さもわからないなら、お前はなおさら愚か者だ!」
霧の団は結局、シンドバッド一人の言葉によって壊滅させられた。
彼らはそれほどの力しか持っていなかった。
「お前は勝てないケンカにまわりをまきこんで、破滅させようとしてただけだ!」
カシムの固く握られた拳が地面を殴りつける。捕らえられた盗賊の末路は、誰もが知っている。元は国の圧政によって虐げられた民であっても、一度盗賊に堕ちてしまえば―――。
「盗賊たちの末路は……死しかありませ」
「だが!!」
静寂に包まれていた中、シンドバッドの大きな声が響き渡る。―――だが? と引っかかる言葉にジャーファルが「ん?」と疑問をあらわにする。その横でハルも不思議そうに首を傾げていた。
それでも戦うことを選択するのなら、道はもう一つだけある。
シンドバッドはそう言った。その言葉に、ジャーファルは再び「ん??」と慌てている。王をよく知っているであろう従者の狼狽えっぷりを間近に、アラジンやモルジアナも戸惑い始める。
シンドバッドの提案は、霧の団に足りないものを他者で補うこと。
「すなわち、この俺を『霧の団』の仲間にすることだ!」