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シンドバッドが霧の団に入り、バルバッド国軍と戦う。確認するように口にしたジャーファルに、シンドバッドは肯定した。この国の惨状……飢える民、それを嘲って笑う貴族。それを目の当たりにして心が動いたのだ、と。「この状況に何も思わないおまえはなんてひどいやつなんだ」と指を差されながら言われたジャーファルは震えた。
―――なぜ私が悪者のような扱いに……。

「この国を見て思ったんだ。あの自分のことしか考えんバカ国王よりも、俺は! 自分が処刑されると言われても、スラムのために戦う気持ちを捨てないこいつらの、力になりたいと!」

シンドバッドの言葉に困惑を隠せないのは霧の団の団員たちもだ。国王が盗賊団に入るなんて、何を考えているのか。戸惑いを隠せていない盗賊たちを見てアラジンが笑声を零す。自分に向けられた二人分の視線に、アラジンは「シンドバッドおじさんがおもしろいんだもの」と笑った。シンドバッドが話し始めると、なぜだか皆が耳を傾けてしまう。彼はそんな不思議な力を持った人だった。

騒然とする部下たちから視線をシンドリア王へと戻したアリババが、殴られた腹を抑えながら口を開く。その瞳からは隠しきれない警戒心が伺えた。

「一国の主であるアンタが、他国に介入するなんて、何か理由があるんだろ」
「ただ、この国を助けたい! ―――と言っても、信じないか」

鋭い視線を向けるアリババに視線を合わせるようにシンドバッドが片膝をつく。バルバッドを助けたいという気持ちに偽りはない、ただ、他にも理由があるとするのならば―――

「“世界の異変”を、止めるためだ!」

シンドバッドは続けた。
この世界は近年、混乱に満ちている。戦争、貧困、差別の拡大。
シンドリア国王として手を打つ必要がある。「世界の異変」の一つである「バルバッド内乱」を解決するのはそれが理由だと答えた。

アラジンは半年前に会った女性のことを思い出していた。煌帝国の皇女、練白瑛。世界の混乱を治める必要がある。
そのためにただ一つの国、王が必要だと真っ直ぐな目を向けていた迷宮攻略者。二人は同じものを見ているのだ。

アリババが狼狽えていると、その背後から「だまされんな!」と叫ぶ声が上がった。

「“国王”のくせに何が俺たちの“仲間”だ……」

険しい表情でシンドバッドを睨みつけているのは、カシムだった。

「貴族、王族。てめぇらの人間は! の人間を踏みにじって生きてるクズ野郎じゃねぇか!!」

カシムの脳裏に浮かぶのはこれまでの過去。やせ衰え、病に倒れる妹。助けを乞うても歯牙にもかけないバルバッドの王族、国軍。汚らわしいと唾を吐く貴族の醜い姿。

「俺たちみてぇな汚ねぇの貧乏人が、飢えて死のうが腐ってなくなろうがいいと思ってんだろ!? 自分たちが贅沢に暮らすためならよぉ!?」

その言葉を遮るように、カシムの肩を掠って何かが地面に突き刺さる。刃物に繋がる赤い縄を握っていたのはジャーファルだ。

「黙れ」

低く、怒りを含んだ声でジャーファルは続けた。

「お前は何も知らないだろう。シンドバッド王が、どれほど自分を犠牲にして生きてきたか」

これまでの温厚さを捨て冷え切った表情で、ジャーファルはカシムの胸ぐらを掴む。

「知らない野盗が」

そう吐き捨てて刃物をカシムの首元へと振り下ろす。刃が肌へと突き刺さりその首を抉る直前に、シンドバッドが刃ごとその手を掴んで止めた。

刃物を握ったシンドバッドの手から血が滴るのを見て、ようやくジャーファルの耳に周囲の雑音が入る。顔色を失って謝るジャーファルに、シンドバッドは笑みを浮かべた。

初めて見るジャーファルの一面に、アラジン、ハル、モルジアナが驚いたように目を開く。「ジャーファルおにいさんはちょっと怖い人だったんだね」アラジンが恐る恐る口にすると、見慣れているのかマスルールは「まあ、時々……」と返すのだった。