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シンドバッドが第一に提案したことは、アリババと共にバルバッド王宮へ赴くことだった。王宮へ突き出すつもりかと噛み付くカシムにそうじゃないとシンドバッドは否定する。「民衆の指示を得たら身分を明かし、アブマドと話をつける」アリババ自身が言っていたことを、今実行するのだと。

どこで話を聞いていたのかと訝しむアリババの背後でハルは(やはり、盗み聞きしていたのか)と顔を僅かにしかめた。アリババがバルバッドの王子とシンドバッドが口にしていた時点で違和感は覚えていたが……。

(部屋の外に気配は無かったが)

「君は、紛れもなくバルバッドの王子だ。―――だから君には、重い責任があるんじゃないか?」

決心がついていなかったアリババが真っ直ぐにシンドバッドを見返す。アブマドと話をつけ解決することができたら、バルバッドの民が苦しむことはなくなる。決して簡単な道ではないだろうが、それでも。

「行っておいでよアリババくん。何も怖いことなんてないよ」
「……アラジン」
「君は勇気ある人じゃないか。僕は知っている!」



その日、バルバッドに大きなニュースが流れた。

「霧の団」のリーダー「怪傑アリババ」がバルバッド国の第3王子であり、単身王宮に乗り込んだというのだ。

人々は、この国の王と反政府組織のリーダーとの会談に未来への希望を託し、王宮の前に集った。


王宮前に向かったアラジンとモルジアナに断って、ハルはひとりバルバッドの郊外へと向かっていた。丘の上から王宮の方角を見据え、空を仰ぐ。そこには見慣れた鷹が一羽、空気を切るように旋回している。

―――バルバッドはレームにとっても主要な貿易相手、このまま静観することはないだろうと思っていたが。私の位置はシェヘラザード様が把握しているはず。指示がないということは、元老院たちはバルバッドと手を切る判断をしたのだろうか。

(レームは既に大陸の北西の国を支配下に置こうと動いていた。東方への進出の足がかりとして北の小国を選んだ私達に対抗すべく、煌帝国は南のバルバッドに目をつけたのか……)

ハルの脳裏によぎるのは圧政に苦しむバルバッドの国民だ。

近い将来起こるだろう煌帝国とレームの戦争。
そのための侵攻の犠牲になった、罪のない力なき人々。

「……」

シンドバッドが話していた「世界の異変」。それはハルも知っていた。兄や、シェヘラザード、騎士団の団長、同盟国の王子。多くの人間がその異変には気付いていた。その渦中に居たこともある。その争いが原因で、ハルは兄を失い、こうして国を出ているのだ。

霧の団に魔法道具を斡旋しているという背後の人物、ハルはどうか勘が当たることがないようにと祈りながら、王宮へと向かったアリババの背を思い浮かべる。

どうか穏便に話が済むように、これ以上の血が流れることがないように。瞳を閉じて強く願い続けるその小さな姿を鷹は静かに見下ろしていた。